第一次世界大戦中の日本

第一次世界大戦中、日本（当時は大日本帝国）は連合国の一員としてこの世界規模の紛争に加わりました。本記事では、日本がどのようにして参戦に至り、戦中にどのような活動を展開し、そして戦後どのような影響を受けたのかを詳述します。

参戦への道

1914年6月末に発生したサラエボ事件を端緒とする欧州情勢の緊迫化を受け、ドイツ陸軍がシュリーフェン・プランに基づきベルギー領内に侵入したことを確認したイギリスは、同年8月4日にドイツへ宣戦布告しました。

日本はイギリスとの間で日英同盟を結んでいましたが、この同盟には自動参戦条項は含まれておらず、またその適用範囲はインドを西端とするアジア地域に限定されていました。開戦直前の8月1日、イギリスのエドワード・グレイ外相は駐英大使に対し、第一次世界大戦への参戦において日英同盟は適用されない旨を伝え、日本政府は8月4日に一旦中立を宣言しました。

しかし、日本の参戦を巡るイギリス政府の対応は定まりませんでした。イギリス海軍からの報告を受け、グレイ外相は膠州湾租借地を拠点とするドイツ東洋艦隊による通商破壊の危険性を懸念し、8月7日には日本に対し、正式な宣戦布告なしに極東のドイツ仮装巡洋艦を攻撃するよう要請しました。ところが、9日には一転して参戦の一時延期を求め、11日には先の攻撃要請を正式に撤回するなど、その態度は二転三転しました。最終的に日本の参戦が避けられなくなると、イギリスは当初、参戦範囲を中国沿岸域に限定しようと試みました。

日本国内では、原敬、高橋是清、尾崎行雄、さらには元老の井上馨や山縣有朋らが参戦に反対の立場を示しましたが、加藤高明外相は、イギリスとの伝統的な友好関係および日本の国益の観点から参戦論を展開しました。議論の結果、ドイツに宣戦布告した上で、戦域を限定しない条件での参戦が8月8日の閣議で決定されました。ちなみに、シーメンス事件により前首相や前海相が辞職していた海軍は、この政治的決定への関与は限定的で、当初は消極的な姿勢でした。

大隈重信首相は参戦決定に先立つ8月8日に大正天皇に上奏を行っており、イギリスからの参戦延期要請に対して、天皇への上奏を取り消すことは不可能であると駐日イギリス大使に伝えました。イギリスはその後も戦域の限定を引き続き求めましたが、日本はこれを拒否。最終的に、ドイツに対する最後通牒に膠州湾租借地を中国へ返還させる目的で一時的に日本に引き渡すという条件を盛り込み、さらに大隈首相が今回の参戦には領土的野心がないと表明したことで、日英間で合意に至りました。

イギリス政府の対応が一貫しなかった背景には、日本の参戦によって中国大陸での権益が拡大すること、そして南太平洋のドイツ領を日本が占領することへの懸念がありました。高度な自治権を持つ一方、外交権をイギリスが握っていたオーストラリアやニュージーランドは、日本の海外進出に対する懸念を率直に本国に伝えていました。また、中立国である中国とアメリカの両政府も、イギリスに対して日本の参戦に反対する意向を伝えていました。

日本政府は1914年8月15日、ドイツに対し最後通牒を送りました。直接の国益に直結しない第一次世界大戦への参戦には異論も少なくなかったため、一週間の回答期限を設ける異例の対応でしたが、ドイツは回答しなかったため、日本は8月23日に宣戦布告を行い、第一次世界大戦に参戦しました。

戦地での活動

青島と南洋諸島の攻略

参戦後、日本は連合国軍の一員としてドイツとの戦闘を開始しました。1914年11月7日には、日本陸軍とイギリス陸軍の連合軍が、ドイツ東洋艦隊の拠点であった中国・山東省の租借地、青島の要塞を攻略しました（青島の戦い）。

ドイツ領南洋諸島を占領するかについては、日本国内でも結論が出ていませんでした。参戦を推し進めた加藤外相でさえ、南洋群島の占領はイギリス植民地政府やアメリカ政府を刺激するとして消極的な姿勢を見せていました。しかし、9月に入り、ドイツ巡洋艦ケーニヒスベルグによるイギリス艦ペガサス撃沈や、エムデンの活躍などドイツ東洋艦隊の活動が活発になったことで、イギリス植民地政府やアメリカの対日世論は落ち着きを見せました。このような状況を踏まえ、南洋諸島の占領が決定されました。ニューギニアやサモアについては、オーストラリアとニュージーランドが9月にはすでに占領していました。日本は10月3日から14日にかけて、第一、第二南遣支隊の艦艇によって、南洋諸島のうち赤道以北の島々（マリアナ諸島、カロリン諸島、マーシャル諸島）を占領しました。これらの島々の領有権の帰趨は戦後に決定されることで合意されていましたが、国民感情としては期待が高まっていました。日本の占領地域が急速に拡大したことに対し、各国から懸念の声が上がったため、イギリスは日英間で連携作戦行動区域の限定を提案。交渉の結果、占領した地域を追認する形で、赤道以北を日本、赤道以南をイギリスの作戦区域とすることが決定しました。この結果、軍事的な南進はミクロネシアまでにとどまりました。開戦前に南洋諸島に派遣されていたドイツ東洋艦隊は、日露戦争でバルチック艦隊を壊滅させた日本艦隊に恐れをなして逃亡し、南米ホーン岬経由でドイツ本国へ帰還するため東太平洋へ向かいました。

海軍の広範な活動

日本海軍は、イギリス海軍の要請に応じ、さまざまな海域で活動を展開しました。 ANZAC軍団の欧州派遣を護衛するため、巡洋戦艦伊吹が派遣され、オーストラリアやニュージーランドの兵員輸送船団と共にアデンへ向かいました。この航海途上でドイツ巡洋艦エムデンによるココス島砲撃が伝えられ、付近を航行していた艦隊のうち、オーストラリア巡洋艦シドニーが分離してエムデンを撃沈しました。この際、護衛艦隊中で最大の艦であった伊吹もエムデン追跡を求めましたが、武勲はシドニーに譲ることになりました。これは「伊吹の武士道的行為」として賞賛されたとする記録がある一方、伊吹艦長はエムデン発見の一報が伊吹にのみ伝えられず、シドニーによって抜け駆けされたと抗議したという記録もあります。以後の太平洋とインド洋における連合国輸送船の護衛は、ほぼ日本海軍が担いました。しかし、1917年にはオーストラリア西岸フリーマントルに入港する巡洋艦矢矧に対し、陸上砲台から誤射が発生。これは水先案内人の信号不備が原因とされましたが、最終的にオーストラリア総督と海軍司令官の謝罪により一応の決着を見ました。オーストラリアは人種差別を背景とした強硬な姿勢を戦争中も和らげることなく、日英通商航海条約への加入拒否や南洋諸島の日本領有への反対などで妥協せず、日本の協力を必要とするイギリス本国を手こずらせました。

ドイツ東洋艦隊がアメリカ西海岸地域に移動する可能性があるとしてイギリスが日本海軍に哨戒活動を要請したことから、日本は1914年10月1日に戦艦肥前、巡洋艦浅間、同出雲などからなる遣米支隊をカリフォルニア南部からメキシコにかけて派遣しました。到着後、遣米支隊はイギリス海軍やオーストラリア海軍、カナダ海軍の巡洋艦と共に活動し、一部の艦艇はドイツ海軍を追ってガラパゴス諸島へも展開しました。このうち出雲は、後に第二特務艦隊の増援部隊として地中海のマルタ島へ派遣されています。

さらに、ドイツ海軍による無制限潜水艦作戦が活発になると、1917年には連合国から日本に対し、護衛作戦への参加要請が再三行われました。これに先立ち、1917年1月から3月にかけて、日本、イギリス、フランス、ロシア政府は、日本がヨーロッパ戦線に参戦することを条件として、山東半島および赤道以北のドイツ領南洋諸島におけるドイツ権益を日本が引き継ぐことを認める秘密条約を締結していました。これに応じ、日本海軍はインド洋に第一特務艦隊を派遣し、アジアのイギリスやフランス植民地からヨーロッパへ向かう輸送船団の護衛を担当しました。また、1917年2月には、巡洋艦明石および樺型駆逐艦8隻からなる第二特務艦隊をインド洋経由で地中海に派遣。その後、桃型駆逐艦などを増派し、地中海の日本艦隊は合計18隻に達しました。

地中海へ派遣された第二特務艦隊は、規模こそ他の連合国に比べて小規模でしたが、高い稼働率を示し、1917年後半から開始されたアレクサンドリアからマルセイユへの大規模な兵員輸送作戦の護衛任務を成功させました。連合国軍の兵員約70万人を輸送するとともに、ドイツ海軍のUボートの攻撃を受けた連合国艦船から7000人以上を救出し、西部戦線での劣勢を覆すのに大きく貢献するなど、連合国から高い評価を得ました。一方、35回に及ぶUボートとの戦闘が発生し、多くの犠牲も生じました。特に駆逐艦榊はオーストリア潜水艦U27の攻撃を受け大破し、59名の将兵が戦死しました。榊の修理には8か月を要しています。これらの戦闘を含め、地中海では合計78名の日本軍将兵が戦死し、戦後、マルタ島のイギリス海軍墓地の一隅に墓碑が建立されています。インド洋と地中海において、日本海軍は連合国商船787隻、計350回の護衛と救助活動を行い、その功績に対し、司令官以下27名はイギリス国王ジョージ5世から勲章を授与されました。

また、欧州の戦場から遠く、造船能力に余裕があったことから、1917年にはフランスから発注された樺型駆逐艦12隻を急速に建造し輸出しました（アラブ級駆逐艦）。

陸軍の欧州派遣要請と拒否

戦争が塹壕戦により長期化することが予想されるようになると、一度は参戦地域限定を日本に求めたイギリスに加え、フランスやロシアは一転して日本に対し、陸軍をヨーロッパ戦線に派遣するよう繰り返し要請しました。フランスとロシアはイギリスを通じ、3個軍団の派遣を求め、その後もベルギーやセルビアからも要請がありましたが、加藤外相は、日本軍兵士が国民皆兵の徴兵制度に基づき召集されており、国益に直結しない外征に参加させることはできないとする声明を発表し、これらの要請を全て拒否しました。

西部戦線での個人の参加

日本陸軍は公式に欧州戦線へ兵を派遣しませんでしたが、個々の日本人が志願して連合国側の外国軍に加わり、戦闘に参加した例は存在します。滋野清武男爵はフランス軍の飛行隊に志願入隊し、敵機を約6機撃墜してエース・パイロットとなりました。また、カナダに在住していた日本人約200名はカナダ軍に入隊し、フランス北部でイギリス軍指揮下の歩兵として戦い、約50名の戦死者を出しました。この戦いの経緯については、諸岡幸麿が回想録を残しています。

戦時下の社会と文化交流

日本の商船も、ドイツのUボートや仮装巡洋艦による攻撃の対象となり、迷彩塗装や自衛用火砲の搭載、連合国側護送船団への加入などの対策が講じられましたが、1915年以降、靖国丸、常陸丸、平野丸など合計33隻（約13万5千総トン）の日本商船が戦没しました。

一方、日本は日露戦争時と同様に、戦時国際法を遵守し、捕虜となったドイツ軍将兵を丁重に扱いました。青島で捕虜となった約4700名は、徳島県の板東俘虜収容所、千葉県の習志野俘虜収容所、広島県の似島検疫所俘虜収容所など各地の収容所に送られました。特に板東収容所での扱いは極めて手厚く、ドイツ兵は地元住民との交流も許され、近隣では「ドイツさん」と呼ばれて親しまれました。この時期、ドイツ料理やビール、ベートーヴェンの交響曲第9番（第九）など、数多くのドイツ文化が日本に伝えられました。第九は、板東収容所のドイツ兵によって日本で初めて演奏されました。ドイツに帰還した元捕虜は、この時の待遇に感謝して「バンドー会」を結成しました。また、似島検疫所では菓子職人のカール・ユーハイムが日本初のバウムクーヘンを焼き上げ、実演販売を行うなどしたほか、捕虜のサッカーチームが地元の師範学校チームに技術指導を行うということもあり、これが後のSVヴァンヴァイル創設の礎となりました。

戦後の影響

第一次世界大戦における連合国側の勝利に大きく貢献した功績が認められ、日本は連合国五大国の一つとしてパリ講和会議に参加しました。ヴェルサイユ条約によって、ドイツが中国山東省に持っていた権益および赤道以北のドイツ領南洋諸島（パラオ、マーシャル諸島など）を委任統治領として譲渡され、さらに国際連盟の常任理事国となりました。戦中にドイツから鹵獲した海底ケーブルは、後の対米外交に利用されることになります。

内政面では、日本は当時すでに世界有数の工業国であり、近代工業が隆盛を極めていました。国土は直接の戦火を免れたため、連合国からの軍需品の発注により、日本郵船が繁忙を極めたり、成金が出現したりするなど、大戦景気に沸きました。しかし、その一方でインフレーションが急速に進み、貧富の差が拡大。終戦すると一転して、戦後恐慌と呼ばれる不景気に見舞われました。工業は成長し生産力は増大、都市に人口が集中するなど、人々の生活は大きく変化しました。

対外関係においては、特にアメリカ合衆国との関係が悪化しました。日清・日露戦争を経て列強の一員となっていた日本は、第一次世界大戦の勝利によってその地位をさらに強固なものとしました。ヴェルサイユ条約で山東省の権益やアメリカが植民地としていたフィリピンとハワイの間に位置する南洋諸島の統治権を獲得したことや、シベリア出兵を継続したことなどが、日本がアジア太平洋地域に排他的な経済ブロックを構築し、アメリカの中国への経済進出を阻害するのではないかという警戒感を生みました。これに対しアメリカは、旧宗主国で関係が深いイギリスに働きかけ、日英同盟を撤廃させるよう圧力をかけたほか、日本が国際連盟で主張した人種的差別撤廃提案に対しても他国以上に強硬に反対しました。さらに国内でも、日本人移民が多いカリフォルニア州などを中心に、黄色人種に対する人種差別を背景とした日本の脅威論が支持を得たほか、これに後押しされた黄禍論を唱える諸派によって、結果として排日移民法が成立し、日本からのアメリカへの移民が禁止されました。こうしたアメリカ当局による、人種差別も背景とした一方的ともいえる敵対的な行動に対し、日本でも反米感情が高まり、日米関係は悪化の一途をたどることとなりました。この日本のアメリカとの関係悪化、さらにアメリカによるイギリスからの分離工作、そして結果としてのドイツやイタリアへの接近が、その後の第二次世界大戦における両国の衝突へと繋がっていきました。

アメリカの主導によって日英間の関係分断と、アジア太平洋および中国における自国の権益保護を目的として、太平洋における領土・権益の相互尊重、および諸島の非軍事基地化を取り決めた四カ国条約が、1921年に日本、アメリカ、イギリス、フランスの間で締結されました。これにより、アメリカの要求通りに日英同盟は発展的に解消されました。また、日露戦争後、友邦関係にあったロシアが単独講和を経てロシア革命によって共産化したことも相まって（ソビエト連邦の成立）、日本は実質的に同盟国を持たない状態となりました。

第一次世界大戦は、日本が国際社会での地位を向上させる大きな機会となった一方、その過程で新たな国際関係、特にアメリカとの対立を生み、国内社会にも大きな変容をもたらした出来事でした。

もう一度検索