飯田市立上郷図書館

飯田市立上郷図書館

飯田市立上郷図書館は、長野県飯田市上郷黒田に位置する公立図書館です。そのルーツは1923年（大正12年）に上郷青年会が設立した私立図書館に遡ります。第二次世界大戦後、多くの青年会運営図書館が公民館図書部に吸収される中、上郷図書館は青年会の運営を維持し続けました。その後、児童書を重視する運営方針を採り、飯田市との合併後は飯田市立図書館の地域館として、その役割を担っています。

歴史

開館前史（1899-1923）

19世紀末から20世紀初頭にかけて、上郷村では集落ごとにいくつかの文庫が開設されました。しかし、これらの文庫の蔵書は時代遅れの内容が多く、大正デモクラシーの潮流に沿ったものではありませんでした。1922年、上郷青年会は自主的な組織へと転換し、会員が自由に学べる「上郷文庫」の設立を決定。寄付金を集め、文庫設立に向けて動き出しました。

当時、上郷村は村営電気事業を計画していましたが、県の支援は得られず、村人たちは県への不満を募らせていました。この状況下で青年会幹部が長野市や松本市の図書館を視察し、知識の重要性を痛感。上郷文庫の実現に向けて奔走しました。村電運動が一段落した1922年11月から本格的に寄付金集めを開始。目標額を達成し、文庫規則の制定、書架の購入、設置場所の決定を行いました。

選書では、帝国図書館に助言を求め、神田古書店街での購入を勧められました。しかし、関東大震災の影響で、発注した本の半分程度しか届きませんでした。届いた蔵書は、純文学、社会科学、宗教・哲学など多岐にわたり、特に白樺派や民本主義の著書が多かったと言われています。

上郷文庫（1923-1936）

1923年10月10日、上郷文庫は上郷小学校西館の一室を借りて開館しました。蔵書270冊という小さなスタートでしたが、青年たちは自分たちの文庫を誇りに思っていました。農閑期には月に3回、農繁期には月に2回開館し、有料で本の貸し出しを行いました。貸出料は本の修繕費に充てられました。閉架式を採用し、書名を記した木札を並べ、利用者は木札を窓口に提出して本を借りるという方式でした。図書館業務は青年会の図書部員12名が無報酬で行っていました。

1924年には、経済学の講義やマルクス[[経済学]]の講習会を開催。青年運動を反映して、購入図書には共産主義革命や社会運動に関するものが多く、普通選挙やプロレタリア文学に関する本も多く見られました。上郷文庫は高度な本を所蔵する一方、各集落の文庫は気軽に読める本を所蔵するというすみ分けがなされていました。

しかし、青年会の左傾化を危惧した村当局は、文庫への補助金を削減。さらに、青年会幹部がLYL事件で罰金刑に処されたことで、青年会は右寄りの団体へと転換を余儀なくされました。それでも、青年会員の中には社会運動や社会主義学習を続ける者もいました。

1927年、上郷文庫は信用組合謄写版室に移転。より良い図書館を目指し、青年会は村立図書館の建設を計画。しかし、実際には村に建設費を出させ、図書館経営の実務は青年会が掌握するというものでした。1936年7月、上郷図書館は新館を建設し、準開架式を採用。1階が図書館、2階が青年会館として利用されました。新館の開館により、利用者は増加し、地域住民に広く利用されるようになりました。

私立上郷図書館（1936-1941）

新図書館は、県立長野図書館長の助言を受け、準開架式を採用。利用者はガラス越しに本を見つけ、書名を記入して出納口に提出して本を借りるという方式でした。開館日は以前と同様で、女子青年会員と男子青年会員が交代で貸出業務を行いました。貸出料は無料化され、利用者は更に増加しました。

しかし、図書館運営委員会には村長や小学校長、婦人会代表なども参加するようになり、体制批判的な本は姿を消し、国家主義的な本や娯楽的な本が増加しました。1939年には帝国図書館長が視察に訪れ、1940年には県から優良図書館表彰を受けるなど、模範的な図書館として評価されました。

太平洋戦争が激化するにつれ、図書館の運営は困難となり、青年会員は戦場に送られ、利用実績は低下。1941年には上郷青年会が解散しました。

村立移管と太平洋戦争（1941-1945）

上郷青年会の解散に伴い、図書館は村立に移管されました。運営は村に移り、実質的には上郷国民学校の教員が担うことになりました。学校長の原太一は、読み聞かせを重視し、小学生の利用を促進。延滞料の撤廃や、隣組での一括貸出などの改革を行いました。

しかし、青年らは軍事教練や農作業で疲弊し、読書どころではなくなっていました。また、「不良図書」として約200冊が除籍され、代わりに古典文学や国策本が購入されたため、青年たちの不満が高まりました。その後、青年たちの意見が反映され、小説が多く購入されるようになり、利用者からの問い合わせに答えるなど、現代のレファレンスサービスに通じる活動も生まれていきました。

終戦間近になると、図書館は郷土防衛隊本部に接収され兵舎となり、蔵書は分散。図書館は荒廃した状態で終戦を迎えることになりました。

図書館解放運動（1946-1950）

戦後、上郷青年会は復活し、図書館の復興に着手しました。1946年には図書館を再開し、読書会も再開しました。しかし、図書館2階に村営診療所が併設されることになり、青年会は活動場所を失うことになりました。

青年会は図書館が単なる貸借の場ではなく、青年が集まれる場所であるという認識を新たにし、図書館解放運動を開始。診療所から2階を取り戻す運動を展開し、図書館設立期の元青年部員から話を聞いて、活動の正当性を確信しました。1949年には青年会長が館長に選ばれ、図書館の改造を実行。1950年、診療所は移転し、青年会は図書館を取り戻すことに成功しました。

解放後の村立・町立図書館（1951-1985）

1953年、図書目録を作成し各戸に配布。学校を通じて図書を貸し出すサービスや、映画会会場での出張貸し出しサービスを開始しました。下伊那図書館協会が設立されると、北部地区図書館協議会は解消し、同協会北部支部となりました。

上郷青年会で活躍した人々の中には、村長や県議会議員になったり、社会運動家になったりする者も現れました。特に、上郷文庫設立に貢献した人物が村長や助役になると、図書館の経費を保障する政策を実行。「村をゆり動かす力を図書館から」というスローガンを掲げました。1956年には専任の図書館員が任命され、1962年には土日を除く毎日開館となりました。

1964年、上郷村民会館が落成し、図書館はその1階に入りました。旧図書館は公民館下南分館となりました。1967年からは、非常勤ながら専任の館長が置かれるようになりました。1970年には上郷村が町制施行により町立上郷図書館に改称。1976年度には蔵書数17,803冊、貸出冊数4,624冊を記録しました。

黒田の独立館（1985-）

1985年、上郷町黒田に図書館単独の施設が建設され移転。1986年には、上郷小学校の学校司書であった下沢洋子が館長に就任。下沢館長は児童サービスの専門家であり、上郷図書館は児童書の収集に力を入れ、外国語の絵本を原書で購入するなど、児童サービスに力を注ぎました。

1993年、上郷町が飯田市と合併したことにより、飯田市立上郷図書館となり、飯田市立図書館の地域館として位置付けられました。1997年にはコンピュータによる貸し出しを開始し、2011年には南信州図書館ネットワークに参加しました。

利用案内

開館時間：10時から18時まで

休館日：月曜日、第4金曜日、祝日、館内整理日、年末年始

貸出制限：飯田下伊那に居住・通勤・通学する者

貸出カード：南信州図書館ネットワーク加盟館のものも利用可能

貸出可能冊数：10冊

貸出可能期間：2週間

延長：予約がなければ1度だけ可能

返却場所：図書館カウンター、ブックポスト

利用可能サービス：自動貸出、予約、リクエスト、レファレンスサービス、複写

交通

JR飯田線伊那上郷駅から徒歩5 - 7分

飯田市広域バス飯田高校前バス停から徒歩約1分

中央[[自動車道]]飯田ICから自動車で約15分

駐車場：20台分

特色

蔵書の特徴

児童サービスを重視し、児童書の収集に力を入れています。また、外国語の絵本を原書で購入するなど、独自のコレクションを形成しています。

飯田市立図書館では、マイクロフィルムの状態で上郷青年会資料や上郷時報を保有しています。

テーマ本の展示

毎月、特定のテーマに沿った本の展示を行っています。テーマは「雨の本」「お父さんの本」「書評に載った本」「花のある風景」など様々で、年間を通して多くの展示が行われています。

児童サービス

児童書の充実、乳幼児や保育園児向けの絵本や紙芝居の読み聞かせを行っています。また、お楽しみ会、おはなし会、おはなしぼうけんたいなどの子供向けイベントも開催しています。

読み聞かせは館内のみならず、幼稚園や保育園などへ出張して行っています。さらに、児童サービスを提供する側に向けて、読み聞かせボランティアの研修会や、高等学校での絵本講座も開催しています。

文章講座

文章講座は、1年間の連続講座で、文章を書くことが苦手な人から、文章力をさらに高めたい人まで、様々な立場の人が参加しています。講義、演習、添削の3段階で構成されており、記念文集を刊行します。講座修了生の中には、自主的にグループを作って文章力を磨く人もいます。

脚注

注釈

出典

参考文献

奥泉和久・小黒浩司「戦後復興期における上郷図書館の民主化運動をめぐって」『図書館界』第55巻第3号、日本図書館研究会、2003年9月、158-167頁、NAID 110007985368。
是枝英子『知恵の樹を育てる 信州上郷図書館物語』大月書店、1983年10月28日、203頁。全国書誌番号:84012225
丸山信『長野県の図書館』三一書房〈県別図書館案内シリーズ〉、1998年3月31日、278頁。ISBN 4-380-98223-8。
宮下裕司「飯田市立図書館と南信州図書館ネットワークについて」『2011年度（平成23年度）公立図書館における協力貸出・相互貸借と他機関との連携に関する報告書』全国公共図書館協議会、2012年3月、65-68頁。
小川利夫・寺﨑昌男・平原春好 編 編『下伊那公民館活動史』日本図書センター〈日本現代教育基本文献叢書 社会・生涯教育文献集V 49〉、2001年10月25日、467頁。ISBN 4-8205-2951-X。
上郷史編集委員会 編 編『上郷史』上郷史刊行会、1978年5月1日、1385頁。 NCID BN02926500。
社団法人 日本図書館協会 編 編『日本の図書館 1969』社団法人 日本図書館協会、1970年12月10日。全国書誌番号:74001261
社団法人 日本図書館協会 編 編『日本の図書館 1970』社団法人 日本図書館協会、1971年9月30日。全国書誌番号:74001261
社団法人日本図書館協会図書館年鑑編集委員会 編 編『図書館年鑑 1986』社団法人日本図書館協会、1986年6月30日、621頁。ISBN 4-8204-8606-3。

関連項目

長野県の図書館一覧

外部リンク

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飯田市立上郷図書館
* 飯田市立上郷図書館 - カーリル

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