オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート

オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート（Oliver Hazard Perry-class missile frigate）は、アメリカ海軍が1970年代から1980年代にかけて建造したミサイルフリゲートの艦級です。対潜戦能力を重視しつつ、防空能力も備えた多用途艦として、51隻が建造されました。第二次世界大戦後のアメリカ海軍水上戦闘艦としては最多の建造数を誇り、その設計思想は多くの国に影響を与えました。

概要

本級は、船団護衛や低脅威海域での哨戒を主な任務とし、低コストで高い戦闘能力を発揮することを目指して開発されました。2機の多用途ヘリコプターと戦術曳航ソナーを搭載し、長射程のスタンダード艦隊防空ミサイルを装備するなど、「安物」ではない、高い戦闘能力を備えていました。また、スターク被弾事件では、2発のエグゾセ対艦ミサイルを被弾しながらも、自力でアメリカ本土に帰還するなど、高い抗堪性も示しました。これらの特徴から、オーストラリア、スペイン、台湾などの海軍でライセンス建造が行われたり、アメリカ海軍の退役艦が購入されたりするなど、世界中で広く運用されました。

イージス艦が主流となったアメリカ海軍において、本級の戦闘能力は限定的でしたが、その運用コストの低さと小回りの良さ、ヘリコプター運用能力から、海上治安活動などの戦争以外の軍事作戦（MOOTW）で活躍しました。当初の予想よりも退役ペースは遅かったものの、2015年までにアメリカ海軍での運用は終了しました。

来歴

アメリカ海軍では、戦後、ブロンシュタイン級、ガーシア級、ノックス級と護衛艦の強化を進めてきました。しかし、1970年にズムウォルト大将が海軍作戦部長に就任すると、コスト重視の設計が求められるようになり、より安価なフリゲートで補完するハイ・ロー・ミックス (High Low Mix) コンセプトが導入されました。

当初は対潜特化型と対空型が検討されましたが、最終的には対潜能力を強化した対空型に一本化されました。海軍が主導して設計が進められ、低コストでありながら高い能力を持つフリゲートが求められました。1973年には、バス造船所が詳細設計・建造契約を獲得し、建造が開始されました。1番艦と2番艦の間には2年の間隔を設け、1番艦の建造で得たノウハウを反映できるよう計画されました。また、各造船所の能力を考慮し、基本的な設計は指定しつつ、ある程度の自由な設計も可能とする配慮がなされました。

当初はパトロール・フリゲート（PF）として類別される予定でしたが、1975年の艦種再編に伴い、ミサイルフリゲート（FFG）に変更されました。

設計

船体

遮浪甲板型の船体が新規に設計されました。上部構造物は、艦橋から煙突、ヘリコプター格納庫まで一体化されており、艦の全長のおよそ50%を占めています。これは、空母戦闘群に随伴して長期間の航海を行うために、居住性を向上させ、物資倉庫を大型化したためです。戦闘指揮所（CIC）は、艦橋との往来を重視して、その斜め後方に配置されています。

排水量低減のため、上部構造物にはアルミニウム合金が多用されましたが、これが抗堪性の欠点との指摘もあります。また、アルミニウム合金や高張力鋼など高価な素材を多用したことが、逆に船価の上昇につながった側面もあります。しかし、バイタルパートには装甲が施されており、弾薬庫区画にはアルミニウム合金装甲、主機関管制室上には鋼板装甲、主要な電子・指揮区画にはケブラー・プラスチック装甲が施されています。

艦首は、波除けのために長く前に伸び、大きなブルワークが装備されています。SH-60ヘリコプターの搭載に伴い、航空運用能力向上のため、フィンスタビライザーが装備されました。「ブーン」以降の艦は、艦尾側船体を延長するよう設計変更されており、排水量も増加しています。

機関

主機関には、スプルーアンス級と同じLM2500ガスタービンエンジンによるCOGAG構成が採用されています。2基のLM2500からの出力を減速機を介して1軸にまとめ、推進器を駆動します。推進器には、5翅の可変ピッチ・プロペラが使用されています。本級の計画速力は最大28.5ノットですが、LM2500×1基でも最大25ノットの速力発揮が可能とされています。

また、抗堪性を持たせるため、補助推進装置としてアジマススラスターが2基装備されており、スクリューや舵が破損した場合でも推進と操舵が可能です。48番艦「サミュエル・B・ロバーツ」は、触雷で機関室が浸水し機能を喪失しましたが、この補助推進によってバーレーン港に自力で帰還しました。電源としては、ディーゼル発電機を4基搭載しています。

装備

C4I

本級の戦術情報処理装置は、当初は「簡易型」と位置づけられ、通常の海軍戦術情報システム（NTDS）に対してJTDS（Junior Tactical Data System）と区別されていましたが、後にWSSと改称されました。初期のフライトI・IIでは、AN/UYK-7電子計算機を2基搭載し、武器支援処理装置（WSP）と武器管制処理装置（WCP）として使用していました。フライトIIIでは、電子計算機のメモリサイズを拡張し、対潜戦用のWAPが追加されました。また、リンク11の送受信に対応し、AN/SLQ-32電波探知装置がシステムに連接されました。フライトIVでは、WAP/LAMPSやリンク11の機能強化が図られ、最終艦「イングラハム」ではWSP・WAPをAN/UYK-43に更新しました。

また、一部の艦にはRAIDS（Rapid Anti-Ship Cruise Missile Integrated Defense System）が実装され、ファランクスCIWSの火器管制レーダーとAN/SLQ-32電波探知装置からの情報を、コンピュータを介して戦闘システムに統合しました。

対空・対水上戦

レーダーとしては、2次元式のAN/SPS-49のみが搭載されました。これにより、本級は、アメリカ海軍のミサイル艦として唯一、3次元[[レーダー]]などの高角測定手段を備えない艦級となりました。射撃指揮装置としては、Mk.92 mod.2が搭載され、4目標を同時に追尾できます。最終艦「イングラハム」では、CORT（Coherent Receiver Transmitter）を適用して低空目標への対処能力を強化したmod.6に更新されました。

艦対空ミサイル（SAM）発射機としては、当初は連装のMk.26が検討されましたが、後にMk.13に変更されました。ここからSM-1MRミサイルが発射されましたが、2003年度に退役したことから、Mk.13発射機も順次撤去され、遠隔操作式の25mm単装機銃が搭載されました。

艦砲としては、62口径76mm単装速射砲（Mk.75 3インチ砲）が搭載されました。これにより、本級は、1960年代以降に建造されたアメリカ海軍の水上戦闘艦としては唯一5インチ砲を搭載しない艦級となりました。対艦兵器としては、Mk.13からハープーン艦対艦ミサイルを発射することができました。

1988年より、Mk.15ファランクス20mmCIWSが順次搭載され、1990年代後半よりブロック1に更新されました。また、湾岸戦争を受けて、一部の艦には、小型の高速戦闘艇に対処するためのMk.38 25mm単装機銃などが搭載されました。

対潜戦

本級では、アスロック対潜ミサイルを省き、ソナーも簡便なものとして、遠距離での戦闘はTACTASSとLAMPSに多くを依存する運用構想となりました。探信儀としては、AN/SQS-56が採用されました。TACTASSの遠距離探知性能を活用するため、29番艦よりAN/SQQ-89(V)2統合対潜システムが実装されました。また、AN/SQS-56にキングフィッシャー機雷探知改修を施した艦もあります。

艦固有の対潜兵器としては、324mm3連装短魚雷発射管のみが搭載されました。この短魚雷発射管およびLAMPSヘリコプター用として、Mk.46またはMk.50が搭載されました。

電子戦

竣工当初は、AN/SLQ-32(V)2電波探知装置が搭載されていましたが、フライトIIIより戦闘システムと連接されるようになりました。また、1987年10月より、電子攻撃機能を備えたAN/SLQ-32(V)5電波探知妨害装置へのアップデートが開始されました。デコイ発射機としては、Mk 36 SRBOCが標準装備となり、一部の艦には、新型のNULKAアクティブデコイのためのMk.53連装発射機も搭載されました。

艦載機

本級には、2機のLAMPSヘリコプターを搭載することが決定されました。初期建造艦では、SH-2を用いたLAMPS Mk.Iが搭載されました。その後、SH-60Bを使用するLAMPS Mk.IIIが搭載されることになり、2番艦「マッキナニー」がLAMPS Mk.IIIのテストベッドとして改修されました。フライトIII以降の艦は、この仕様で建造されたほか、これ以前の建造艦の一部でも同様の改修が行われました。

同型艦

アメリカ国内で建造された艦に加え、オーストラリア、スペイン、台湾でライセンス生産された艦が存在します。また、退役した艦は、バーレーン、エジプト、トルコ、ポーランド、パキスタン、中華民国、チリなど、多くの国に購入・運用されています。

登場作品

本級は、映画『キャプテン・フィリップス』や『レッド・オクトーバーを追え!』、小説『レッド・ストーム作戦発動』、ゲーム『Wargame Red Dragon』、『World in Conflict』、『エースコンバット5』、『大戦略シリーズ』、『バトルフィールドシリーズ』など、様々な作品に登場しています。

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