住吉 (神戸市)

住吉（すみよし）

神戸市東灘区に位置する住吉は、地域の中核である本住吉神社の門前町として歴史を刻んできました。その範囲は、かつての住吉村の領域とほぼ一致しており、現在の神戸市東灘区では渦森台、鴨子ケ原、住吉台、住吉山手、住吉本町、住吉宮町、住吉東町、住吉南町、住吉浜町、さらに神戸市灘区の一部（六甲山町字五介山、同字西谷山）に及びます。古くは菟原郡に属していたことから「菟原住吉（うはらすみよし）」とも称され、口語では「茨住吉（いばらすみよし）」と転訛した呼び名も伝わっています。

この地域は、東に松林が広がる住吉川の自然堤防、南に広がる大阪湾、そして北にそびえる六甲山地とその中腹台地という地形的特徴を持っています。この地勢は、近代に入り住宅地として開発される上で非常に有利な条件となりました。住吉川の清流沿いには、文豪・谷崎潤一郎の旧邸である「倚松庵」をはじめ、野村家、住友家、久原家、安宅家といった著名な人々の邸宅が数多く建設され、その歴史的な景観を今に伝えています。

地域内の伝統的な区分

住吉には、現在の行政上の町名とは別に、江戸時代から続く伝統的な七つの地区名が存在します。これらは主に、地域の祭事であるだんじり祭りなどで用いられ、山田、空、西、茶屋、呉田、吉田、住之江と呼ばれています。さらに、かつての村政時代には、これらに観音林と反高林を加えた計九つの区（現在の町内会に相当）が組織されていました。それぞれの地区は、異なる歴史や特徴を持っています。

山田（やまだ）: 住吉山手以北に広がり、中世以降に開拓された枝郷です。かつては住吉川の扇状地に広がるのどかな農村でした。
観音（かんおん）: 自然堤防上に位置し、既存の地区に属さなかったこの地に富豪が移り住んだことで新たに区が追加されました。字観音林単独で一つの区を形成し、人口は少ないため自治会も存在しません。地名は天文年間に創建された観音堂の跡地に由来します。
空（そら）: 住吉本町3丁目の全域と1・2丁目の北部を含みます。町総代の時代には「空之町」と呼ばれていました。
西（にし）: 住吉本町2丁目の南部に位置します。町総代の時代には「西之町」と呼ばれ、かつて寺子屋があった阿彌陀寺があります。
茶屋（ちゃや）: 住吉宮町6・7丁目と5丁目西部にあたります。西国街道からの入り口にあたり、地域の核である本住吉神社もこの地区に位置します。
呉田（ごでん）: 住吉南町の全域と住吉宮町1丁目南部・5丁目東部を含む地域です。江戸時代に沿岸部の新田として開墾されました。御影郷に属する酒造りの盛んな一帯です。
吉田（よしだ）: 住吉東町4・5丁目、3丁目北東部、住吉宮町3丁目、住吉本町1丁目南部からなります。公家の吉田定房の三男が隠遁したという伝承があり、村政時代の吉田区の名の由来とされています。街道沿いの細長い宿場町であり、地理的にも住吉の中心部に位置します。
住之江（すみのえ）: 住吉宮町2丁目、1丁目北部、住吉東町3丁目東南部を含みます。以前は「仲（なか）区」と呼ばれ、町総代時代は「中之町」でしたが、皇紀2600年を記念して住之江に改称されました。東求女塚の北に寄り添うように形成された地区です。かつて住吉水平社が結成され、部落解放運動の拠点となった歴史も持ちます。
反高林（たんたかばやし）: 狐狸が棲みつくような昼でも薄暗い松林だった土地に富豪が住み始めたことで、吉田と住之江の境界が曖昧だった自然堤防上全体が反高区とされました。字反高林単独で一つの区を成し、人口が少ないため自治会はありません。「反高」とは、収穫が少なく石高が付けられなかった土地を指す言葉です。

住吉の歴史

住吉の地には、先史時代から人々が生活を営んでいた痕跡が残されています。渦ヶ森や鴨子ケ原では多数の石鋤が、荒神山では穴居跡が発見されています。特に昭和9年には渦ヶ森で有環銅鐸という珍しい遺物が出土しました。この地域最大の古墳である東求女塚古墳をはじめ、地名に残る平塚、坊ヶ塚、鬼塚、庚申塚、梅ノ木塚などからも、かつて多くの塚（古墳やその陪塚など）が存在したことがうかがえます。

神功皇后の時代とされる201年には、現在の本住吉神社である住吉神社が創建されたと伝えられています。神功皇后が三韓征伐からの帰途、神のお告げによって住吉大神を祀ったことが、「住吉（すみのえ）」という地名の由来になったと語り継がれています。

『姓氏録』には「住吉朝臣」の名が見られ、これは当時の住吉一帯を支配していた有力な豪族であった可能性を示唆しています。『和名抄』において初めて「菟原郡住吉郷」として地名が記されており、当時の住吉郷は野寄（現・西岡本）、田中（現・田中町の一部など）、岡本、片町といった村落まで含んでいたようです。

永保4年（1084年）には、野寄、岡本、田中、片町などと共に、北野社領の山路庄（やまじのしょう）の一部となりました。建武2年（1335年）には、公家の吉田定房の三男である吉田幸磨がこの地に隠遁したと伝えられており、村政時代の吉田区はこの故事に由来するとされています。さらに寛永年間（1624年-1644年）には、吉田家の分家が呉田の沿岸部に移り住み、酒造業や廻船業を営んで千石船で広く商圏を広げました。

応仁の乱（1467年）の後には、横田家が枝郷である山田を開拓したとされ、慈明寺（永正元年（1504年）の洪水で失われた）の寺侍であった勘助という郷士がその始まりと伝えられています。元和3年（1617年）から約150年間は尼崎藩の領地となりました。寛永14年（1637年）には典牛和尚によって西地区に阿彌陀寺が開かれ、万治元年（1658年）には吉武大吉郎によって住之江地区に専念寺が創設されました。

元禄5年（1692年）、徳川光圀が湊川神社に建立した「嗚呼忠臣楠氏之墓」の石碑は、台石に住吉産の良質な花崗岩「本御影」が用いられています。光圀の家臣である佐々助三郎がたびたびこの地を訪れ、石材を吟味したという記録が残されています。

享保年間（1716年-1736年）には、医家であった山内新兵衛が呉田の開墾を進め、「字新兵衛新田」としてその名が残っています。明和6年（1769年）の上知令により、明治維新まで約100年間、大坂谷町代官所の支配下に置かれました。明和7年（1770年）には、住吉川の水車を利用した製油業が始まり、これが後に灘酒の精米にも用いられ、その味の秘密の一つとなったと言われています。

近代に入ると、地域の近代化が急速に進みました。明治6年（1873年）に阿彌陀寺本堂を仮校舎として住吉小学校が開設され、明治7年（1874年）には東海道本線（現在のJR神戸線）の住吉駅が開通しました。天井川であった住吉川の下をトンネルで抜けるために川底が嵩上げされ、現在も駅周辺には急坂が残っています。明治8年（1875年）頃からは通称寒天山（渦ヶ森の北方）で寒天製造が始まり、明治末期まで続きました。

明治12年（1879年）には郡制施行に伴い、菟原郡役所が空区に設置されました（翌年には武庫郡役所と統合）。また、連合戸長役場制により、住吉村外二ヶ村戸長役場が住吉組として設けられました。この年、被差別部落の住民が神輿担ぎを拒否されたことに端を発する裁判が起こり、神戸控訴院での敗訴を経て、明治15年（1882年）に大審院で勝訴を勝ち取るという歴史的な出来事もありました。

明治22年（1889年）の町村制施行により、阿彌陀寺の茶堂に村役場が置かれました。明治29年（1896年）には菟原郡が八部郡と共に武庫郡に編入され、武庫郡住吉村となりました。明治38年（1905年）には阪神本線の住吉駅が開通し、大正元年（1912年）には現在の場所に近くなるよう南へ移転しました（いわゆる住吉南駅）。

大正2年（1913年）には灘購買組合（灘神戸生協の前身の一つ）が住吉で誕生しました。大正11年（1922年）には仲区青年会場で住吉水平社の創立大会が開催されました。大会は開催前から緊張した雰囲気に包まれ、当日も警察の介入や騒動がありましたが、翌日改めて行われた大会は成功裏に終わりました。住吉水平社は大正15年（1926年）には徹底した反共産主義を掲げ、純粋な水平社運動を推進しました。

昭和に入ると災害が地域を襲いました。昭和3年（1928年）には六甲山火事が発生し、西谷山で広範囲が類焼、消火活動中に消防夫の殉職者も出ました。昭和9年（1934年）の室戸台風では多数の家屋が倒壊・浸水し、海岸の防波堤も決壊する被害を受けました。そして昭和13年（1938年）7月には阪神大水害が発生し、住吉村域でも33名の死者を含む甚大な被害が出ました。この災害の後、多くの富豪が村を離れ、村の税収が大きく減少するという影響もありました。翌年にはこの教訓を伝える「禍福無門の碑」が建立されました。

戦後の昭和25年（1950年）、住吉村は魚崎町、御影町と共に神戸市に合併し、東灘区の一部となりました。村有財産は財団法人住吉学園（睦実践女学院が前身）が管理することになりました。区役所は当初御影にありましたが、昭和30年（1955年）に住吉出張所を新庁舎として移転しました。これは、住吉が区の中央に位置し、国道2号に面し国鉄住吉駅にも近いという交通の利便性と、十分な敷地があったことが理由です。

戦災復興事業として、昭和33年（1958年）に住吉第1工区、次いで第2・3工区の区画整理が実施されました。昭和35年（1960年）度からは大規模な海面埋め立て事業が着工され、灘区鶴甲山や六甲山腹の渦ヶ森から大量の土砂がベルトコンベアやダンプ専用道によって運ばれ、現在の住吉浜町の基礎が築かれました。

昭和40年（1965年）には同和対策事業の一環として東灘厚生館が開館。特別措置法を受けて事業が進み、住宅建設や福祉施設の拡充が行われました。同時期に海面埋立地の一部が住吉浜町と命名されました。昭和43年（1968年）には東灘区総合庁舎が完成し、行政サービスの拠点が集約されました。昭和44年（1969年）以降、反高林など一部地域を除き、順次住居表示が実施され、現在の町名が整備されていきました。

昭和45年（1970年）には六甲有馬ロープウェーが開通し、表六甲線の一部が区域内に含まれましたが、昭和47年（1972年）に住吉町の一部が灘区に移管されたことにより、ロープウェー全線が東灘区外となりました。昭和49年（1974年）には阪神電鉄国道線が廃止されました。

平成元年（1989年）にはJR住吉駅が改築され、駅ビル「リブ住吉」が完成しました。翌平成2年（1990年）にはJR住吉駅と六甲アイランドを結ぶ神戸新交通六甲アイランド線（六甲ライナー）が開通し、交通の利便性がさらに向上しました。

平成7年（1995年）1月17日に発生した阪神・淡路大震災（兵庫県南部地震）では、住吉も最大震度7を記録し、多くの家屋が倒壊するなど甚大な被害を受けましたが、その後復興が進められました。平成11年（1999年）には東灘区総合庁舎が移転し、平成13年（2001年）にはJR住吉駅南地区の再開発ビル「KiLaLa 住吉」が竣工するなど、現代的な街づくりが進んでいます。

主な施設等

公共サービス

東灘区総合庁舎
東灘福祉事務所
東灘郵便局
神戸市立東灘図書館

学校・教育施設

神戸市立住吉小学校
神戸市立渦が森小学校
私立甲南小学校
神戸市立住吉中学校
神戸大学附属中等教育学校
神戸市立友生支援学校
神戸市立住吉幼稚園
神戸市立遊喜幼稚園
私立星の園幼稚園
私立ちぬのうら幼稚園
私立住吉学園幼稚園
私立渦が森幼稚園

病院

甲南医療センター
東神戸病院

宗教施設

本住吉神社
阿彌陀寺
専念寺
日の神教団本部
創価学会神戸講堂
カトリック住吉教会

名勝・史跡・観光スポット

博物館・美術館

倚松庵（文豪谷崎潤一郎旧邸）
白鶴酒造資料館
白鶴美術館

遺跡

東求女塚古墳
住吉宮町遺跡（坊ヶ塚遺跡）
荒神山遺跡
渦ヶ森銅鐸出土地

行楽地

五助堰堤（現神戸市灘区との境界付近）
六甲山最高峰（現神戸市北区との境界付近）

交通

鉄道

JR西日本東海道本線（JR神戸線）、神戸新交通六甲アイランド線：住吉駅
阪神電鉄本線：住吉駅

道路

有料道路
阪神高速道路3号神戸線（区域内に出入り口なし）
阪神高速道路5号湾岸線：住吉浜出入口
ハーバーハイウェイ
主な一般道
国道2号（区域内全線で一般国道171号が重複）
国道43号
山手幹線
鳴尾御影線
住吉幹線
東御影線
西獺川線（有馬道）

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