先哲叢談

『先哲叢談』は、江戸時代初期から中期にかけて活躍した儒学者たちの伝記をまとめた漢文の書物です。原念斎によって編纂された正編が出版された後、東条琴台によって後編と続編がまとめられました。この書は、当時の儒学者の思想や業績、生き方を今に伝える貴重な資料として知られています。

成立の経緯

正編

原念斎は、もともと天文以降の人物に関する伝記や墓碑銘を収集し、『史氏備考』という100巻にも及ぶ大著を編纂していました。その後、この『史氏備考』を要約する形で『先哲叢談』を編纂しました。

念斎は当初、この書を公にするつもりはありませんでしたが、人目に触れたことで転写され、世間に広まってしまいました。そこで、念斎は儒林部14巻から永禄から享保年間に生きた人物を選び出し、『先哲叢談』8巻として刊行することにしました。

文化12年（1814年）11月20日 - 出版許可
文化13年（1815年）9月 - 刻成
文化13年（1815年）9月 - 井上四明序
文化13年（1815年）11月 - 朝川善庵序
文化14年（1816年）1月下旬 - 佐藤一斎序

後編

正編刊行後、原念斎は残りの6巻を刊行することなく亡くなってしまい、遺稿は息子の徳斎に引き継がれました。一方、東条琴台は独自に『儒林小史』『閑散分宜記』を著していましたが、文政8年（1811年）春、『先哲叢談』の版元である慶元堂が琴台を訪れ、これらの書物を見て重複を整理し、『先哲叢談後編』として刊行することを提案しました。文政11年（1814年）冬、琴台は原念斎の息子である徳斎を訪ね、残りの草稿を受け継ぎました。

文政10年（1827年）8月 - 出版許可
文政12年（1829年）9月 - 刻成
文政12年（1829年）12月 - 原徳斎序
文政13年（1830年）5月 - 亀田綾瀬序

続編

東条琴台は後編に引き続き、続編、余編の編纂にも着手しましたが、完成を見ることなく死去し、遺稿は息子の信升に託されました。信升は隣に住む岡本行敏に遺稿を託し、須原屋茂兵衛から刊行されました。

光緒9年（1883年）冬 - 楊守敬序
明治16年（1883年）9月下旬 - 斎藤拙堂序
明治16年（1883年）10月 - 岡松甕谷序

収録されている人物（一部）

正編

藤原惺窩、林羅山、林鵞峰、林鳳岡、石川丈山、山崎闇斎、熊沢蕃山、伊藤仁斎、荻生徂徠、太宰春台、青木昆陽など、江戸時代を代表する儒学者が数多く収録されています。

後編

谷時中、山鹿素行、細井広沢、南部南山、佐久間洞巖、中江岷山、劉竜門、渋井太室、蘆野東山などが収録されています。

続編

角倉了以、三宅道乙、松下見林、林道栄、松浦霞沼、伊藤梅宇、木下蘭皐、石島筑波、多田東渓、後藤芝山、片山北海、吉田篁墩などが収録されています。

現代語訳・翻刻

明治時代以降、『先哲叢談』は現代語訳や翻刻が行われ、広く読まれるようになりました。大町桂月による『新訳先哲叢談』や、萩野由之監修による『先哲叢談』などが刊行されています。また、近年では、平凡社東洋文庫から源了圓・前田勉訳注による現代語訳が出版されています。

『先哲叢談』は、江戸時代の儒学研究における重要な資料であるとともに、当時の人々の思想や生き方を学ぶ上で貴重な文献です。本書を通じて、江戸時代の知識人の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

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