北伐 (東晋)

東晋の北伐：失われた故地を求めて

概要

三国時代を終結させた西晋は、八王の乱とそれに続く五胡の侵入によって滅亡しました（永嘉の乱）。西晋の残存勢力は、河北・河南・関中を失いながらも江南に亡命政権を樹立、これが東晋です。東晋は、旧領回復を目指して幾度も北伐を試みました。また、有力な武将たちは、北伐を自らの地位と名声を高めるための手段として利用しました（桓温、劉裕）。しかし、朝廷内部の権力闘争や軍閥間の不和、そして占領地の疲弊による補給難などが原因で、北方の完全な奪還には至りませんでした。

祖逖の北伐

東晋朝廷から十分な支援を得られなかった祖逖は、自らの手で故地を回復しようと決意しました。彼は2000人の義勇兵を率いて長江を渡り、北伐を開始します。河南各地の豪族を打ち破り、後趙との戦いでは石勒や石虎を破って河南を奪還しました。しかし、河北の奪還を目指して準備を進めていた矢先、朝廷によって更迭され、その憤りのうちに亡くなりました。祖逖が回復した河南も、やがて後趙によって再び奪い返されました。

殷浩の北伐

永和9年（353年）、後趙の滅亡後の北方における混乱に乗じて、殷浩は北府軍団を率いて北伐を敢行しました。しかし、反乱を起こした羌族の首長である姚襄に敗北を喫してしまいます。

桓温の北伐

永和10年（354年）、桓温は西府軍団を率いて荊州から北伐を開始しました。関中に進軍し、前秦の苻健を破り、その長男である苻萇を討ち取る戦果を挙げましたが、長安の奪還には失敗しました。永和12年（356年）には、羌族の姚襄と戦ってこれを撃破し、洛陽を奪還しました。

興寧3年（365年）、前燕によって洛陽が再び奪われると、太和4年（369年）に桓温は前燕に対する北伐を再度行いました。当初は優勢に進軍しましたが、干ばつによる水路の補給路の遮断と前秦の参戦により撤退を余儀なくされました。撤退の途中、前燕の慕容垂率いる軽騎兵による追撃を受け、3万人以上の死者を出す大敗を喫しました（枋頭の戦い）。この敗北により、桓温による北方回復の試みは頓挫しました。

劉裕の北伐

慕容超の治世下で南燕が混乱に陥ると、義熙6年（410年）に劉裕は南燕に対する北伐を敢行しました。同年、南燕を滅ぼし、山東を奪還することに成功しました。この結果、東晋・南朝と三韓および倭国との間の交通が改善され、大規模な遣使が可能となりました（倭の五王）。義熙12年（416年）、後秦の姚興が死去し、国内が混乱すると、同年、劉裕は檀道済や王鎮悪などの将軍を率いて後秦に対する北伐を決行しました。翌義熙13年（417年）には後秦を滅ぼし、長安と洛陽を奪還しました。しかし、国内の統治を任せていた劉穆之が急死したため、劉裕は次男の劉義真に王鎮悪、沈田子、毛徳祖などの将軍を付けて関中に残し、建康へと帰還しました。

劉裕が南に帰還すると、夏の赫連勃勃が関中の奪取を狙って侵攻を開始しました。そのような状況下でありながら、劉裕が残した将軍たちは仲間割れを起こし、沈田子が王鎮悪を殺害するという事態に発展しました。これにより東晋軍の結束は乱れ、赫連勃勃に敗北し、関中を失うこととなりました。

もう一度検索