大炊御門信嗣

大炊御門信嗣(おおいのみかど のぶつぐ)



大炊御門信嗣は、鎌倉時代中期から後期にかけて活躍した公卿であり、大炊御門家7代当主です。内大臣大炊御門冬忠の子として生まれ、最終的には従一位太政大臣にまで上り詰めました。

出自



信嗣の出自については、『公卿補任』と『尊卑分脈』に記述が見られます。

公卿補任』:正元元年(1259年)に信嗣が従三位に叙せられた際の記事
尊卑分脈』:大炊御門信嗣の項

これらの記録によると、信嗣の母は筑前守・藤原長宗の娘であるとされています。しかし、『尊卑分脈中院通成の項では、通成の娘が大炊御門太相母であると記されています。この矛盾を解消するために、藤原長宗の娘が中院通成の養女になった可能性が考えられています。中院通成は、娘たちを有力な家柄に嫁がせており、その縁戚関係は大炊御門家にとっても有益であったと考えられます。

経歴



信嗣の経歴は、『公卿補任』の記事に基づいて記述されています。

正元元年(1259年):従三位に叙せられ、公卿に列する。左近衛中将は元の如し。
文応元年(1260年):陸奥権守に任じられ、同年8月28日に正三位に叙せられる。
弘長2年(1262年):右近衛中将に転任。
文永3年(1266年):権中納言に昇進。
文永4年(1267年):従二位に昇叙。勅授帯剣。
文永5年(1268年):正二位に叙される。父・冬忠が薨去し、喪に服す。
文永7年(1271年):権大納言に任じられる。
正応元年(1288年):大納言に転正。左近衛大将を兼任。
正応2年(1289年):従一位に叙せられる。
正応3年(1290年):内大臣に任じられる。左近衛大将を兼任するが、後に辞任。
延慶2年(1309年):太政大臣に任じられる。
延慶3年(1310年):太政大臣を辞任。
延慶4年(1311年):薨去。信嗣以降、大炊御門家から太政大臣に任じられた者はいません。

従一位大納言



弘安年間には、堀川基具や藤原良教も従一位に叙せられていますが、信嗣は彼らとは異なり、従一位昇叙後に大納言を辞することなく内大臣に昇進しています。これは、当時の公家社会において異例の出来事でした。

西園寺実兼の娘である西園寺鏱子が伏見天皇に入内し、中宮となったことが、実兼の昇進に影響を与えたと考えられます。信嗣にとっては、年齢も序列も下の者に先を越された形となり、その慰撫のために、あるいは信嗣からの申し入れによって、大納言兼左近衛大将のまま従一位に叙されたと見ることができます。

本郷和人の説によれば、西園寺実兼が持明院統派であった傍証として、伏見天皇が即位するまで西園寺実兼と大炊御門信嗣が昇進できなかったということは、大炊御門信嗣も同様に持明院統派であったのではないかと推測できます。

内大臣から太政大臣への補任



鎌倉時代には、久我通光を先例として、前内大臣から太政大臣に昇進するケースが生まれました。これは、摂関家が分裂し、西園寺家からも大臣が輩出されたことが背景にあります。西園寺実兼が前内大臣から太政大臣に昇進していることは特筆に値します。

系譜



父:大炊御門冬忠(1218-1268)
母:中院通成の養女 - 筑前守藤原長宗の女か?
妻:左近衛中将頼俊朝臣の娘
長男:大炊御門良宗(1260-1307)
妻:惟宗昌俊の娘
次男:大炊御門嗣雄(?-1325)

参考文献



公卿補任』(新訂増補国史大系)吉川弘文館
尊卑分脈』(新訂増補国史大系)吉川弘文館
増鏡井上宗雄訳注、講談社学術文庫全3巻
日本古典文学大系 神皇正統記 増鏡』木藤才蔵・時枝誠記校注、岩波書店、新装版刊
『勘仲記』
本郷和人『中世朝廷訴訟の研究』 東京大学出版会
本郷和人「西園寺氏再考」『日本歴史』634号
本郷和人「外戚としての西園寺氏」『ぐんしょ』51
岡野友彦『中世久我家と久我家領荘園』 続群書類従完成会

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