封奕

封奕（ほう えき）

封奕（生年不詳 - 365年）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた人物です。字は子専。渤海郡蓨県出身。
『晋書』、『資治通鑑』、『新唐書』では封弈とも記載されます。前燕の初代君主である慕容廆（ぼようかい）に見出され、その後4代に渡って仕え、内政・軍事両面で多大な功績を挙げました。

生涯

慕容廆の時代

封奕の祖父である封釈は、西晋の東夷校尉として遼東一帯を管轄していました。封奕は幼少期を祖父の庇護の下で過ごします。311年に封釈が亡くなると、当時遼東・遼西地方で勢力を拡大していた鮮卑系の慕容部の大人（部族長）である慕容廆に託されました。
慕容廆は封奕と語り合い、その才能に感嘆し、彼を小都督に抜擢します。313年には幕僚として迎え入れられ、国家の重大機密を任されるようになり、間もなく軍諮祭酒に昇進しました。20年以上にわたりこの地位に留まり、慕容廆の事業を支えたとされています。

慕容皝の時代

333年に慕容廆が死去すると、子の慕容皝（ぼようこう）が後を継ぎました。慕容皝の弟である慕容仁が反乱を起こすと、慕容皝は封奕を遼東に派遣し、民心を慰撫させようとしました。しかし、孫機らが慕容仁に呼応して反旗を翻したため、封奕は入城できず、慕容皝の異母弟である慕容汗と共に帰還しました。
その後、封奕は司馬（参謀役）に任じられ、軍諮祭酒も兼務します。334年には、慕容皝に対抗する鮮卑族の木堤討伐に出撃し、これを打ち破って首級を挙げました。同年、段部の段蘭と慕容翰が慕容皝の領内に侵攻すると、封奕は寧遠将軍慕容汗と共に救援に向かいました。慕容汗は性急な人物で、封奕の諫めを聞かずに突撃し大敗を喫しましたが、封奕が軍を率いて救援し、慕容汗は撤退することができました。335年には右司馬に任じられ、宇文別部の渉夜干を撃破し、多くの資産を奪って帰還しました。336年には、段蘭が再び侵攻してきましたが、封奕は伏兵を配置して段遼軍を挟撃し、大いに撃ち破りました。これらの功績により、鎮軍左長史に昇進しました。

前燕の宰相

337年、封奕は群臣と共に、慕容皝に燕王を称するよう勧めました。慕容皝はこれを受け入れ、即位前に官僚の整備を行い、封奕を国相に任じました。また、武平侯にも封じられました。同年、慕容皝は燕王に即位し、前燕が建国されました。338年、後趙の石虎が前燕に侵攻すると、封奕は持久戦を主張し、慕容皝を勇気づけました。その後、後趙軍は慕容皝の抵抗に遭い、撤退しました。

慕容儁の時代

348年に慕容皝が亡くなると、子の慕容儁（ぼようしゅん）が後を継ぎました。349年に後趙で内乱が起こると、封奕は慕容儁に中原奪取を進言しました。封奕は、後趙の混乱に乗じて薊城を奪い、さらに鄴都を攻略すれば、民衆は慕容儁を迎え入れるだろうと説きました。慕容儁はこれを聞き入れ、350年に出征を決断しました。
351年、封奕は勃海の民である逄約を討伐し、勃海を前燕の領土としました。352年には、慕容恪と共に冉閔を廉台で破り、捕らえて薊に送りました。同年、魯口に拠る王午討伐にも参加し、王午を降伏させました。

352年10月、封奕は群臣と共に慕容儁に帝位に即くよう勧め、慕容儁はこれを受け入れました。11月、慕容儁が正式に皇帝となると、封奕は太尉に任じられ、中書監を兼務しました。
358年、封奕は頻繁な兵の徴発を憂い、慕容儁に諫言し、聞き入れられました。

慕容暐の時代

360年に慕容儁が崩御すると、子の慕容暐（ぼようい）が後を継ぎました。364年には、龍城に残された宗廟社稷を鄴に移す任を担い、無事成功させました。365年4月に死去し、匡公と追諡されました。

人物

封奕は文武両面に優れた才能を持ち、特に文章を巧みに書くことができたとされています。国相として15年間、常に後進の指導に尽力し、その才能を引き出すことに努めました。慕容儁が皇帝に即位してからは、太尉として国家の方針決定に深く関わり、その功績は大いに重んじられました。

家系

渤海封氏は、炎帝神農氏を起源とする姜姓の後裔で、黄帝の教育係となった鉅を始祖とします。夏王朝の時代には、その子孫が封父という地を所領とする諸侯となり、封姓を名乗るようになりました。周王朝の時代には、封姓と封父姓に分裂しましたが、後に封姓に統一されました。やがて渤海郡蓨県に移り住み、当地の名族となっていきました。後漢の封岌、魏の封仁などを輩出し、封釈、封悛、封奕へと繋がります。

封奕の子孫もまた、北魏から唐にかけて高官を輩出し、渤海封氏は名門として繁栄しました。

脚注

1. 『晋書』巻108 - 巻111
2. 『資治通鑑』巻87 - 巻101
3. 『十六国春秋』前燕録
4. 『新唐書』巻71

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