朝倉孝景 (7代当主)

朝倉孝景（朝倉敏景、英林孝景）

朝倉孝景は、室町時代中期の武将であり、朝倉氏の7代目当主です。初めは祖父や父と同じく教景（のりかげ）を名乗り、後に敏景（としかげ）、再び教景、そして孝景へと改名しました。同名の曾孫と区別するため、「朝倉敏景」と表記されることもあります。法名から「英林孝景」とも呼ばれます。この記事では、原則として「孝景」で統一して記述します。彼は、朝倉義景の高祖父であり、朝倉宗滴（教景）の父にあたります。

生涯

斯波氏の有力家臣として

朝倉氏の祖先は、日下部氏嫡流を称する但馬の古代武士団であり、越前の豪族でした。南北朝時代を経て、越前守護・斯波氏の重臣となりました。父・家景が早くに亡くなったため、祖父の朝倉教景の補佐を受けました。

享徳元年（1452年）に主君である越前守護の斯波義敏から偏諱を受け、教景から敏景に改名しました。しかし、長禄2年（1458年）に始まった義敏と越前守護代・甲斐常治の合戦（長禄合戦）では、守護代側に与し、その主力として活躍します。その後、幕府の仲介により義敏と常治の和睦交渉が行われましたが、義敏の反対により決裂しました。これにより義敏に反感を持った孝景は、長禄3年（1459年）に「敏」の字を捨て、再び教景に名を戻しました。

同年8月11日、足羽郡和田荘での合戦で、守護側の堀江利真（孝景の義兄）や朝倉将景（孝景の叔父であり、舅）らを討ち死にさせ、守護代方を勝利に導き、その地位を高めました。和田での合戦の翌日、甲斐常治が京で亡くなったため、孝景の影響力は相対的に強まりました。

長禄合戦中、合戦を引き起こした斯波義敏が8代将軍足利義政の不興を買い周防に没落し、その子息・松王丸（後の斯波義寛）がわずか3歳で守護となりました。しかし、寛正2年（1461年）8月2日、足利氏の分流であり、堀越公方・足利政知の執事でもある渋川義鏡の子息・斯波義廉が斯波氏の家督を継承しました。

孝景は山名宗全と連携してこの廃嫡を画策したと言われていますが、長禄4年（1460年）に孝景は甲斐常治の嫡子である甲斐敏光と共に遠江の今川範将が起こした一揆鎮圧のため出陣しており、関東にも出兵、寛正2年10月の義廉と義政の対面に同席するまで京都に戻っていない為、否定説もあります。

寛正5年（1464年）、孝景は越前にあった興福寺大乗院の荘園を侵したため、同年6月24日に大乗院によって「教景」の名を呪詛されました。それを知った孝景は、名を教景から孝景に改めました。ただし、「教」も「孝」も「のり」と読めるため、「孝景」の読みは「のりかげ」である可能性も指摘されています。

応仁の乱での活躍

文正元年（1466年）7月24日、義廉は斯波氏家督を追われ、代わりに義敏が斯波氏惣領に復帰します。幕府政所執事・伊勢貞親が、自身の妾と義敏の妾が姉妹であったため、義敏を支持したと言われていますが、関東の遠征軍組織に義廉が必要でなくなった為とする説もあります（義廉の父・義鏡は政争に敗れ失脚）。これに反発した孝景と宗全らは、文正の政変を起こして伊勢貞親・季瓊真蘂・義敏・赤松政則らを京都から追放し、再び義廉が斯波氏惣領となりました。

このような斯波氏の内紛に加え、足利将軍家や畠山氏の家督相続問題から、応仁元年（1467年）に応仁の乱が勃発すると、孝景は主家の斯波義廉と協力して西軍として活躍しました。御霊合戦、上京の戦い、相国寺の戦いなど主要な合戦に参戦し、伏見稲荷に籠もって西軍を苦しめた足軽大将・骨皮道賢を討ち取ったのも孝景です。

越前平定と晩年

文明3年（1471年）5月21日、孝景は魚住景貞を介して東軍の浦上則宗と密かに接触し、将軍・義政および細川勝元から守護権限行使の密約を得て東軍に寝返りました（同じ陣営となった義敏は義政の命令で中立を保ち、代わりに松王丸と義敏の父・斯波持種を擁立）。この寝返りにより東軍が圧倒的優位となり、応仁の乱は終息に向かいます。東軍陣営の権威を背景に、孝景は越前の実効支配による領国化を進めました。当初は苦戦したものの、連戦連勝を重ね、実力で越前一国をほぼ手中に収めました。この際、斯波氏に代わり越前守護に任じられたとする説がありましたが、子の氏景が守護代に任じられていることから、実際には越前守護代であったと考えられています。しかし、甲斐敏光や二宮氏、元服して義寛と改名した松王丸らの反撃を受け、一時苦境に立たされる中、文明13年（1481年）に54歳で死去しました。

嫡男の氏景がその跡を継ぎ、3人の叔父である経景・景冬・光玖の助力を得て、越前を統一しました。

従来、一乗谷を朝倉氏の本拠としたのは孝景であると言われていましたが、これは『朝倉始末記』という流布本にのみ記載されているもので、他に根拠はありません。『親元日記』などの史料により、かなり以前から朝倉氏が一乗谷に根拠を持っていたことが判明しています。

また、分国法である「朝倉孝景条々」（朝倉敏景十七箇条）を制定したとされていますが、これにも一部から疑義が呈されています。

人物・逸話

天下一の極悪人、天下悪事始業の張本人

朝倉孝景は、公領や公家領・寺社領の押領を多く行ったため、当時の権力層である寺社や公家にとってはまさに仇敵でした。当時、寺社が得意としていた人々の信仰心を利用した呪殺目的の護摩祈祷も、改名など呪詛回避を熟知する孝景には通用しませんでした。寛正5年に発生した興福寺が荘園として越前領内に所有していた河口・坪江荘を巡る争いでは、一度は興福寺の安位寺経覚を通じて謝罪の起請文を提出したものの、その後も侵犯を繰り返し、2つの荘園を半済することに成功しています。公卿の甘露寺親長は、日記の中で孝景のことを「天下悪事始行の張本」と評し、彼の死を聞いた際には「天下一の極悪人」であるとまで記しています。一条兼良も自ら越前に下って孝景と直談判して家領の足羽御厨の回復を求めましたが失敗に終わり、『桃華蘂葉』の中で「言語道断也」と記しています。興福寺別当の経覚は、孝景の押領に対抗するため、延暦寺に追われていた親戚の本願寺8世法主・蓮如を自領の吉崎に匿い、代官の役目を負わせつつ浄土真宗の布教を許しました。これが後に朝倉氏歴代を悩ませる一向一揆の温床となりました。

人柄

連歌や和歌などに親しみ、歌僧・正徹や連歌師・宗祇などと交流を持ちました。

孝景は当時の武将としては珍しいほど合理的な人物で、「孝景条々17ヶ条」にその考えが記されています。刀や槍は名刀や名槍などに大金を使わず普通の槍をよく備えておくこと、合戦や城攻めでは吉日や方角などの吉凶に惑わされて攻め時を失うのは最も愚かなことで、詳細に虚実を図り臨機応変の策略を立てることを第一とすることとしています。また、たとえ歴代の家であっても無能であるなら奉行にしてはいけないと定めています。

孝景は軍略に優れ、応仁の乱や越前での戦いで多く勝利を収めましたが、それは孝景が智仁徳を備えた大将であったためです。『朝倉始末記』によると、孝景は豆を食べる時は兵卒と共に掴んで食べ、酒は家臣と酌み交わし、朝は早く起きて夜は兵卒を励まし、傷ついた者を治療しその死を悼んだとされています。そのため、朝倉の兵卒は孝景と水魚の交わりを結び、忠義を尽くしたと言われています。

寛正6年（1465年）1月、守護代の増沢甲斐守と戦った際に連歌会を催して油断を誘い、攻めてきた増沢軍を打ち破りました。その際に合戦に連想する連歌を歌う余裕があったとされています。

応仁の乱における孝景の活躍は目覚ましく、その軍は精強でした。そのため、応仁元年（1467年）6月に義政が西軍の追討令を出すと、西軍諸大名の多くは賊軍になるのを恐れて降伏を申し出る者も多かったのですが、斯波義廉が降伏するには「朝倉孝景の首級」を持参することを条件とされていました（『大乗院寺社雑事記』応仁元年6月12日条）。これは孝景が西軍の主力を成していたことを示しています。京都の各所で焼き働きして「一身、山名に残りおり候」と当時の史料に明記されています。

戦歴

孝景の主な戦歴は以下の通りです（旧暦で記す）。

【長禄合戦】

長禄2年（1458年）11月1日 近江・越前国境、×甲斐敏光・孝景 ─ ○堀江利真
長禄3年（1459年）5月13日 越前・金ヶ崎城、○甲斐敏光・孝景 ─ ×斯波義敏
長禄3年（1459年）8月11日 越前・足羽郡和田、○孝景・堀江庶流 ─ ×堀江利真・朝倉将景ら

【応仁の乱─京都】

応仁元年（1467年）1月21日 京都、○孝景 ─ ×大野持種
応仁元年（1467年）5月26日 京都、○孝景外 ─ ×京極持清
応仁元年（1467年）6月8日 京都、○孝景 ─ ×京極持清
応仁元年（1467年）6月11日 京都、○孝景 ─ ×細川成之
応仁元年（1467年）6月14日 京都・二条、○孝景 ─ ×武田信賢
応仁2年（1468年）3月21日 京都・山科、○孝景 ─ ×骨皮道賢

【応仁の乱─越前】

文明3年（1471年）6月10日 越前、○孝景 ─ ×甲斐方
文明3年（1471年）7月21日 越前・河俣、×孝景 ─ ○甲斐方
文明3年（1471年）8月24日 越前・鯖江外、○孝景 ─ ×甲斐方
文明3年（1471年）9月11日 越前・清水谷、△孝景 ─ △池田勘解由左衛門尉（時忠か）
文明4年（1472年）8月6日 越前・府中、○孝景 ─ ×甲斐方（府中守護所落去）
文明4年（1472年）8月8日 越前・長崎、○孝景 ─ ×甲斐方
文明5年（1473年）8月8日 越前・樋山外、○孝景 ─ ×甲斐方
文明6年（1474年）1月18日 越前・杣山、○孝景 ─ ×甲斐方
文明7年（1475年）2月14日 越前・犬山、○孝景 ─ ×二宮方
文明7年（1475年）11月3日 越前・井野、○孝景 ─ ×二宮左近将監・二宮駿河守
文明7年（1475年）12月3日 越前・土橋、○孝景 ─ ×二宮方（土橋城落城）

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