Qi (ワイヤレス給電)

Qi（チー）とは

Qi（チー）は、「気」に由来する言葉で、ワイヤレス電力伝送の国際標準規格です。主にスマートフォンなどのモバイル機器で利用されており、対応する充電パッドの上に置くだけで、ケーブルを接続せずにバッテリーを充電できます。この技術は、電磁誘導を利用しており、最大4cmの距離でも効率的な充電が可能です。

Qiの基本原理

初期のQi規格（v1.0）は、古くからある電磁誘導の原理を応用しています。これは、二つのコイルが隣接している状態で、一方のコイルに電流を流すと磁束が発生し、その磁束がもう一方のコイルに起電力を生じさせるという仕組みです。以前からこの原理を用いたワイヤレス給電システムは存在していましたが、それぞれが独自規格であったため、異なるメーカーの機器間での相互利用ができませんでした。

Qi規格の策定と進化

この問題を解決するため、2008年にワイヤレスパワーコンソーシアム（WPC）が設立され、企業間での相互利用を可能にする国際標準規格の策定が始まりました。2010年7月には、最大5Wの低電力向けQi規格（Volume I Low Power）が完成し、110kHzから205kHzの周波数帯が使用されることになりました。この周波数帯は、AirFuel AllianceのPMA規格とほぼ同じであり、ハードウェアレベルでの互換性も持っています。

その後、Qi規格は進化を続け、v1.1では、Q値の低い磁界共振を取り入れ、受電側のみを共振させることで、より効率的な電力伝送を可能にしました。v1.21では、送電側のみが共振する構成に変更されています。

さらに、WPCでは中電力向けQi規格（Volume II Middle Power）の開発も進められており、v1.2では15Wの充電に対応し、将来的に200Wまで供給できるようにすることが目標です。

Qiの歴史

2011年頃には、NTTドコモなどの日本企業がQi規格を推進していましたが、充電速度の遅さや、当時は複数のワイヤレス給電規格が並立していたため、普及は遅れていました。また、Qiを推進していた一部のスマートフォンメーカーが事業から撤退したことも、普及を妨げる要因となりました。

しかし、2010年代後半になり、大容量電力送信に対応した規格が策定され、急速充電が可能になったことや、サムスン電子やAppleといった大手メーカーがQi規格を採用したことで、対応機器が急速に増加しました。

Qiの課題とQi2の登場

従来のQi規格では、充電コイルの中心が一致したときに最大の効率が得られるという問題がありました。この問題を解決するために、WPCはAppleと協力し、MagSafeの技術を取り入れた新しい規格「Qi2」を2023年1月に発表しました。

Qi2では、コイルの周囲に磁石を配置することで、デバイスを近づけると自動的にコイルの中心が一致するように設計されています。この技術により、コイルのズレによる発熱の問題が解消される見込みで、WPCは2024年中旬までに15Wを超える出力に対応させることを目指しています。

2023年9月には、iPhone 15シリーズがQi2に初めて公式対応しました。

Qiの通信

充電パッド（送電側）と携帯機器（受電側）の間では、受電側から送電側への単方向通信が行われます。この通信には、パッシブRFIDタグと同様の後方散乱変調が用いられ、受電側の負荷を変動させることでデータを送信しています。通信速度は2kbpsで、1オクテットごとにスタートビット、パリティビット、ストップビットが付加されます。

受電側は、電力を受け取っている限り、定期的にパケットを送り返し、送電側は、その情報をもとに充電面にあるものがQi対応機器なのか、それとも異物なのかを判断します。通信内容としては、受電量の必要量に対する差分、送電停止要求、受電中の電力、携帯機器の充電率などが含まれますが、充電開始時には、受電側の識別情報が送信されることもあります。

WPC（ワイヤレスパワーコンソーシアム）

Qi規格を策定しているワイヤレスパワーコンソーシアム（WPC）は、2008年12月17日に設立されました。事務局はアメリカのニュージャージー州にあり、2022年6月時点で351社が会員となっています。

WPCには、以下の3つの会員区分があります。

正会員（Regular membership）: 仕様策定などコンソーシアム運営全般に責任を負う企業。業界ごとに定数があり、最大25企業が正会員となる。
採用会員（Adopter membership）: 正会員に対して、取締役会の選挙における議決権やWPC仕様の作業草案へのアクセスが制限される。
準会員（Associate membership）: 正会員に対して、取締役会の選挙における議決権、WPC仕様の作業草案へのアクセス、Qi認定製品データベースへの製品登録が制限される。

Qiの沿革

2008年12月17日: WPC設立（設立メンバーは8社）
2009年8月17日: 低電力用バージョン0.95規格書策定、名称「Qi」とロゴ発表
2010年7月23日: Qiバージョン1.0規格書策定、公開
2012年4月21日: 低電力用Qiバージョン1.1規格書公開、磁界共振の導入
2015年6月23日: 中電力用Qiバージョン1.2規格書策定
2021年1月: Qiバージョン1.3規格書策定（最新版は1.3.1）
2023年1月: AppleのMagSafeをベースにした後継規格「Qi2」発表

対応機種

Qi対応機種は多岐にわたります。以下に主なメーカーと機種を記載します。

NTTドコモ

AQUOS PHONE ZETA SH-09D
ARROWS X F-10D
ELUGA X P-02E
MEDIAS PP N-01D
AQUOS PHONE EX SH-04E
AQUOS PHONE f SH-13C
AQUOS PHONE slider SH-02D
AQUOS PHONE st SH-07D
ARROWS Kiss F-03D/F-03D Girls'
ARROWS Kiss F-03E
ELUGA V P-06D
F-09D ANTEPRIMA
MEDIAS X N-04E
Q-pot.Phone SH-04D
AQUOS PHONE ZETA SH-06E
ELUGA P P-03E
Galaxy S6 edge SC-04G
Galaxy S6 SC-05G
Galaxy S7 edge SC-02H
Optimus it L-05E
Galaxy S8 SC-02J
Galaxy S8+ SC-03J
Xperia 1 V SO-51D
Xperia 5 V SO-53D
Xperia 1 VI SO-51E
SH-05D（フィーチャーフォン）

au (KDDI・沖縄セルラー電話連合)

Galaxy S8 SCV36
Galaxy S8+ SCV35
Galaxy S7 edge SCV33
Galaxy S6 edge SCV31
TORQUE G02 (KYV35)
TORQUE G01 (KYY24)
URBANO L01 (KYY21)
URBANO L02 (KYY22)
URBANO L03 (KYY23)
Xperia XZ2 SOV37
Xperia XZ2 Premium SOV38
Xperia XZ3 SOV39
Xperia 5 V
Xperia 1 VI

UQ WiMAX

Huawei モバイルルーター HWD14 Wi-Fi WALKER WiMAX2+

日立マクセル

WP-SL10A iPhone4用ワイヤレス充電対応ケース
MXQI-CVA20 iPhone5用ワイヤレス充電対応ケース
WP-EMCVA10 iPhone4 / 4S用ワイヤレス充電対応ケース

デンソー

WP-EMCVA10 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース

サンワサプライ

WLC-IPH11 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース

ソフトバンクモバイル

Galaxy S6 edge 404SC
MEDIAS CH 101N

イー・モバイル (イー・アクセス)

EM01L

Y!mobile（ソフトバンクモバイル・ウィルコム沖縄）

Nexus 6

Google

Nexus 4
Nexus 5
Nexus 6
Nexus 7 (2013)
Pixel 3 / Pixel 3 XL
Pixel 4 / Pixel 4 XL
Pixel 5
Pixel 6 / Pixel 6 Pro

三洋電機

eneloop N-WL01S-W/-K

サンワサプライ

ENERLINKシリーズ

ノキア

Lumia 820
Lumia 822
Lumia 920

日立マクセル

エアボルテージシリーズ

パナソニック

チャージパッドシリーズ
DIGA ブルーレイレコーダー DMR-BZT920/830
DIGA フォトレコーダー DMR-HRT300
デジタルビデオカメラ HC-V720M
デジタルビデオカメラ HC-W850M
USBモバイルバッテリ QE-PL101/102/103/201/202/203/301/302
エボルタ充電ケース QE-CV201

ペンタックス

PENTAX WG-3 GPS

TDK Life on Record（イメーション）

ワイヤレススピーカー Q35

コニカミノルタテクノロジーセンター

Symfos LED-TASKLIGHT

Apple

iPhone 8以降のモデル
AirPods (第2世代以降) 、AirPods Pro（全世代）、AirPods (第3世代)

SONY

Xperia 1 VI
Xperia 5 V

車載用ワイヤレス充電器

トヨタ自動車：ハリアー、ノア、ヴォクシー、プリウス、カムリ、エスクァイア、プリウスα、MIRAI、レクサスNX,RX
本田技研工業：N-BOX SLASH
日産自動車：ノート（E13）、オーラ、アリア
BMW：7シリーズ
ボルボ：XC40

参考文献

洲崎泰利「すぐに動かせる！5Wスマホ用と3000W EV用の回路データを公開中 LTspiceで無料体験！ワイヤレス電源製作シミュレーション」『トランジスタ技術』、CQ出版、2017年11月、135-143頁。

関連項目

ワイヤレス電力伝送
電磁誘導
充電
消費電力

外部リンク

* Wireless Power Consortium

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