京都市内の通り

京都市内の通り

京都市内の通りは、旧京都市街の道路網と、それらを基準とした所在地表示方式を特徴としています。平安京の条坊制に由来する碁盤の目状の街路は、主要な通りだけでなく、ほとんどの通りが固有の名称を持ち、場所を示すために利用されています。

成立と変遷

794年、平安京の造営とともに、南北・東西に直交する大路小路が整備されました。中央には朱雀大路が走り、都の正門である羅城門と朱雀門を結んでいました。碁盤目状の街路は、幅の異なる大路と小路によって区画され、40丈四方の街区「町」が形成されました。

平安京の範囲は、北は現在の一条通、南は九条通、東は寺町通までとされています。西端は葛野大路付近ですが、右京の衰退により街路としては継承されていません。

10世紀初期には、街路の幅員が詳細に記録されましたが、固有の街路名としては「朱雀大路」のみが見られ、外周を「東極大路」「南極大路」などと示す程度でした。10世紀後半になると、町尻小路、室町小路、油小路など、具体的な名称が使われるようになり、街路名を用いた場所の表現も始まったと考えられています。

平安時代後期には、都市が左京を中心に北へ拡大し、白河殿の設置に伴い鴨川東岸にも広がりました。中世以降、街路の幅は狭まり、両側町が形成されました。戦国時代末期には、「通（とおり）」という表現が用いられるようになり、現在も伝わる新しい名称が生まれました。

豊臣秀吉による京都の町割り変更では、御土居の築造や、寺町通・室町通間、堀川通以西に新たな街路が南北に設けられました。江戸時代には大きな変化はなかったものの、鴨川西岸や鴨東の開発が進みました。明治時代から大正時代にかけては、烏丸通、千本通、東大路通などが拡幅され、市電が敷設されました。その後の都市計画事業により、北大路通、西大路通などの市内外周道路や、河原町通などの主要道路が拡築されました。第二次世界大戦中には、防火のために建物疎開が行われ、戦後の道路拡幅に利用されました。

通り名を用いた場所の表記

京都市内の東西・南北の通りは、平安京以来の直角に交差する街路を踏襲しており、市街地のある地点は、東西・南北の通りの交差点からの位置で容易に特定できます。

交差点

交差点は、交差する2つの通り名を組み合わせた名称で呼ばれます。例えば、三条通と河原町通の交差点は「三条河原町」または「河原町三条」と呼ばれます。どちらの通りを先に呼称しても意味は通じますが、多くの場合、どちらかの順序が固有名詞化しており、バス停の名称などに用いられています。これらの固有名詞は、かつて存在した京都市電の停留所名を継承したものが多いです。

交差点名の呼称に明確な法則性はありません。「白川通今出川」のように「通」の語を残す場合もあります。東大路通と交わる交差点は、「東山○○」と称し、川端通と三条通、四条通などの交差点は「○条大橋」と称します。ただし、東一条通、二条通との交差点は川端東一条、川端二条と称します。

一部例外として、「祇園」（東大路通と四条通）、「百万遍」（東大路通と今出川通）、「天王町」（丸太町通と白川通）、「円町」（西大路通と丸太町通）、「北野白梅町」（西大路通と今出川通）、「二条駅東口」（千本通と御池通）、「京阪国道口」（九条通と壬生通）などと呼ばれる交差点もあります。

これらの交差点名は、周辺一帯を示す地名として認識されており、「四条河原町」は繁華街、「四条烏丸」はビジネス街を指す言葉として使われています。

住所

表記の法則

京都市内中心部では、目的地が面している通り名と、直近で交差する通り名を組み合わせ、交差点からの位置を「上ル」「下ル」「東入」「西入」で示す方法が用いられます。

南北の通りに面した場所: 「△△通○○上ル（あがる）」「△△通○○下ル（さがる）」
東西の通りに面した場所: 「□□通××東入（ひがしいる）」「□□通××西入（にしいる）」

通りの名称末尾が「通」の場合、基本は「通」の語を除きますが、「御前通」のように例外もあります。また、「仁和寺街道」や「三条通北裏」のように、末尾に「通」の付かない場合はそのまま表記します。

通り名の付いていない道（辻子や路地）に入る場合は、「上る東入」のような表記をすることもあります。交差点からの距離が長い場合は、「上る二丁目」のように表記することもあります。

公的な住所の表記

市内の中心部では、上記の表記の法則に従い、町名と番地を加えたものが公的な住所として用いられます。例えば、京都市役所の所在地は「京都市中京区寺町通御池上る上本能寺前町488番地」と表記されます。公的な住所では、「上る」「下る」「東入」「西入」が用いられます。

単に所在地を示す場合は、通常は「上ル」「下ル」「東入」「西入」までを記し、町名や番地は省略されます。また、公的な住所表記では通り名を用いない地域でも、上記の法則により所在地が表記されることが一般的です。

交差点名に「上ル」「下ル」「東入」「西入」を付けて「四条烏丸下る」と表記することも可能ですが、公的な住所には用いられません。

表記の差異

「通」と「通り」

通りの名称について、「通」には送り仮名「り」を付けないのが通例です。ただし、道路標識では全国標準に基づき「通り」と表記されます。

「上ル」「下ル」と「上る」「下る」

公的な住所では「上る」「下る」と平仮名表記を用いますが、一般的には「上ル」「下ル」が使われます。

「東入」「西入」と「東入ル」「西入ル」

公的な住所では「東入」「西入」のように送り仮名を振らないのが通例ですが、一般的には「東入ル」「西入ル」と表記することもあります。

表記の歴史

街路の名称を用いた場所の表現は10世紀後半から始まり、11世紀初頭には交差点名が使われるようになりました。現在のような東西・南北の通りの名前と方向指示による表記は17世紀中期から見られます。

通りを「通」と表記する史料の初出は、1539年の「室町通」で、戦国時代以降に定着したとされています。

通りを覚える歌

京都市中心部の通り名を覚えるために、「寺御幸」（南北の通り）と「丸竹夷」（東西の通り）という歌が知られています。これらの歌は、テレビ広告やフィクションにも登場しています。

南北の通り（寺御幸）

寺町、御幸町、麩屋町、富小路、柳馬場、堺町、高倉、間之町、東洞院、車屋町、烏丸、両替町、室町、衣棚、新町、釜座、西洞院、小川、油小路、醒ヶ井、堀川、葭屋町、猪熊、黒門、大宮、松屋町、日暮、智恵光院、浄福寺、千本

東西の通り（丸竹夷）

丸太町、竹屋町、夷川、二条、押小路、御池、姉小路、三条、六角、蛸薬師、錦小路、四条、綾小路、仏光寺、高辻、松原、万寿寺、五条、（雪駄屋町）、鍵屋町、（銭屋町）、（魚棚）、六条、三哲、七条、八条、九条、十条

これらの歌には、歌詞のバリエーションや通りの順番が実際の並びと異なる部分もあります。また、丸竹夷の前に他の通りの名前を付け加えた歌詞や、丸竹夷と寺御幸を続けて歌うものもあります。

図子（辻子）と路地

路地は、地割の内部にアクセスするための小道です。多くは袋小路で、入り口には門や表札があります。道幅は様々で、外部者の通行が制限されている場合があります。

袋小路の路地を貫通させた小路を図子と呼びます。図子は一般の通り抜けが認められており、名前がつけられているものもあります。

図子は上京区の一条通以北に集中しており、この地域は平安京の範囲外でしたが、市街地の拡大に伴い図子が作られました。

通りの一覧

京都市内には、多くの通りがあり、ほとんどの通りに固有の名称が付けられています。以下に、代表的な通りを一覧で示します。

南北の通り

高野川以東
高野川
高野川以西、賀茂川以東
下鴨東通
松ヶ崎通
宝ヶ池通
下鴨本通
下鴨中通
上賀茂中通
下鴨西通
賀茂川以西、堀川以東（鞍馬口より南）
堀川以西（鞍馬口より南）
大宮通（新大宮通）
大徳寺通（旧大宮通）
牛若東通
牛若通
船岡東通
上野西通
上野通
船岡西通
紫竹西通

東西の通り

鞍馬口通より北
鞍馬口通 - 丸太町通
丸太町 - 五条
五条通より南

伏見市街地の通り

南北の通り

直違橋通
師団街道
京町通
両替町通
新町通

東西の通り

稲荷道
第一軍道
第二軍道
第三軍道
新城南宮道
城南宮道
墨染通
津知橋通
上板橋通
丹波橋通
下板橋通
毛利橋通
大手筋通
魚屋通
油掛通

その他の通り

哲学の道
後院通
加茂街道
きぬかけの路
外環状線
新十条通
滑石道（醍醐道）
東山ドライブウェイ

街道

東海道（国道1号）・中山道・北陸道（国道8号）
大津街道
大岩街道
大和街道・奈良街道（国道24号）
竹田街道
伏見街道
鳥羽街道
大坂街道
西国街道
山陰街道
鯖街道
* 周山街道

脚注

詳細は、参考文献や外部リンクをご参照ください。

この文章は、京都市内の通りの歴史、表記方法、文化について詳しく解説しました。この情報が、京都の街を訪れる人々の理解を深める一助となれば幸いです。

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