日本とフィリピンの関係

日本とフィリピンの関係は、古くは16世紀の倭寇の活動に始まり、貿易、戦争、そして現代の経済協力まで、多岐にわたる歴史的なつながりがあります。ここでは、両国間の複雑な関係を詳細に解説します。

前近代

倭寇

16世紀、日本の海賊である倭寇はフィリピンにまで活動範囲を広げていました。1571年のスペインの報告によると、マニラ、カガヤン、コルディリェラ、リンガエン、バターン、カタンドゥアネスに倭寇が支配する植民地があったとされています。1574年のマニラの戦い、1582年のカガヤンの戦いで勢力は衰退しましたが、倭寇の貿易ネットワークはフィリピン北部に広く及んでいました。イエズス会の宣教師ルイス・フロイスは、倭寇の脅威から身を守るために武器に頼らざるを得なかった状況を書き残しています。

1586年の評議会メモリアルには、日本人によるフィリピン侵略の恐れが記されています。当時、マニラでは倭寇が単なる略奪以上の野心を持っている可能性が指摘され、「彼らはルソン島を植民地にするつもりだ」と警戒されていました。

豊臣秀吉とフィリピン

1592年、豊臣秀吉はフィリピンに降伏と朝貢を要求しました。フィリピン総督はドミニコ会修道士フアン・コボを秀吉のもとに派遣し、返答を伝えました。コボは中国人のアントニオ・ロペスとともに名護屋城で秀吉と会見。その後、原田喜右衛門がマニラへの使節団を率い、ロペスは原田の船でマニラに戻りました。

1593年、ロペスは日本での見聞について宣誓の上で詳しく尋問され、特に日本のフィリピン攻撃計画について質問されました。ロペスは、秀吉が原田に征服を任せたと聞いたと述べ、また日本側がフィリピンの軍事力を嘲笑していたこと、10万の兵を送る計画があったことなどを証言しました。また、1597年に処刑された26聖人の一人であるマルチノ・デ・ラ・アセンシオンも、秀吉のフィリピン侵略計画について日本で聞いたと報告しています。

朱印船貿易と日本人町

豊臣秀吉はキリスト教の布教を伴わない南蛮貿易を望み、自らルソンとの交易を推進しました。1592年以降、朱印船貿易が盛んになり、多くの日本人が東南アジアに移住し、各地に日本人町が形成されました。マニラにも日本人町（DILAW）が作られ、17世紀には最盛期を迎えました。1614年には、バテレン追放令を受けてマニラに到着した高山右近を歓迎しましたが、1633年の鎖国令によって日本人町は衰退し消滅しました。

徳川幕府によるフィリピン 侵略計画

1630年、松倉重政によってフィリピン侵略計画が立てられました。1631年に先遣隊が帰国しましたが、スペイン側は1632年まで厳戒態勢を敷いていました。1637年には、松倉勝家の代でも侵略計画が検討されました。オランダ人はこの計画を徳川家光が発案したと信じていましたが、実際は榊原職直と馬場利重が上司の歓心を買うために立案したものでした。島原の乱が起こったことで、フィリピン遠征計画は中止となりました。

キリスト教の日本布教とフィリピン

フィリピンは、日本へのキリスト教布教の拠点ともなりました。フランシスコ会やドミニコ会などの修道会が、フィリピンを拠点に日本への布教を試みました。マニラで生まれたロレンソ・ルイスは、1637年に長崎で殉教し、1987年に聖人となりました。また、鎖国下の日本に潜入した最後の宣教師とされるジョヴァンニ・バッティスタ・シドッティは、マニラで日本語を学び、日本での布教準備を整えました。

開国後

1868年、日西修好通商航海条約が締結され、日本とスペインの国交が樹立されました。1895年には、台湾とフィリピンの間のバシー海峡を境界線と定める「国境確定ニ関スル日西両国宣言」が調印されました。米比戦争時、日本の明治政府はフィリピン独立革命を支援し、亡命者を受け入れました。

ダバオの日本人街

1910年代には、農園経営のために多くの日本人がダバオに移住し、日本人街が形成されました。しかし、太平洋戦争が始まると日本人は強制収容され、街は戦火で壊滅しました。現在も、ダバオには多くの日系人が居住しています。

第二次世界大戦

1941年、日本は南方作戦の一環としてフィリピンに上陸し占領しました。バターン死の行進事件など多くの悲劇を生みました。フィリピン第二共和国が樹立されましたが、インフレーションや飢餓、抗日組織との対立など、国内は混乱を極めました。アメリカ軍によるフィリピン再奪回により、1945年に戦闘は終結しましたが、フィリピン人死者数は110万人を超えました。

戦後

1956年、日比賠償協定が締結され、両国間の戦争状態は正式に終結しました。日本はフィリピンに対して多額の賠償金を支払い、以後、フィリピンへの最大の援助供与国となっています。1960年には日比友好通商航海条約が調印されましたが、批准は1973年まで待たなければなりませんでした。1980年代以降、両国関係は良好になり、外交摩擦はほとんど見られなくなりました。近年では、経済連携協定も結ばれ、両国関係はさらに深まっています。

近年の動き

2008年には日比経済連携協定が締結され、フィリピンにとって日本は最大の貿易相手国、投資国となっています。日本の海上保安庁は、フィリピン沿岸警備隊の創設に大きく貢献しました。また、日本はフィリピンのイスラム過激派との和平交渉を仲介するなど、政情面でも貢献しています。2013年の台風ヨランダの際には、自衛隊が過去最大規模で派遣され、救助活動や復興活動を支援しました。

年表

1591年豊臣秀吉、スペインのマニラ総督に対し入貢を要求。
1592年朱印船貿易開始。以後日本町がマニラに発展。
1601年フィリピンから出港したスペイン船により、日本にたばこが伝来。
1603年フィリピン総督の書簡を携えたルイス・ソテロが来日。
1614年日本を追放された高山右近がマニラに到着。
1609年フィリピン総督ドン・ロドリゴが上総国に漂着。
1633年鎖国令により日本からの出入国が厳しき制限され、以後日本町は衰退。
1698年ガレオン貿易ルートを経て、サツマイモが日本に伝わる。
1830年備前国を出港した神力丸がフィリピン北部に漂着。
1835年肥後国を出港した船がルソン島に漂着。
1868年日西修好通商航海条約が結ばれる。
1888年マニラに日本領事館が開設。ホセ・リサール来日。
1899年布引丸事件が発生。フィリピン独立革命の支援船布引丸が暴風雨によって沈没した。
1905年日米間による桂・タフト協定で、日本はアメリカの植民地フィリピンに対し領土的野心がないことを表明。
1908年日米間による高平・ルート協定で、フィリピンにおけるアメリカの管理権を日本が承認。
1941年フィリピンに日本軍が上陸（フィリピンの戦い (1941-1942年)）、占領。
1943年大東亜会議に日本代表とフィリピン代表が出席。
1944年フィリピンに連合軍が上陸（フィリピンの戦い (1944-1945年)）、占領。
9月モロタイ島の戦い
10月レイテ島の戦い、レイテ沖海戦
12月ミンドロ島の戦い
1945年
2月マニラの戦い、ビサヤ諸島の戦い
3月ミンダナオ島の戦い
4月スールー諸島の戦い
5月ボルネオの戦い
1956年日比賠償協定締結。
1960年日比友好通商航海条約署名。
2006年日比経済連携協定・日比共同声明

外交使節

在フィリピン日本大使・在外事務所長
駐日フィリピン大使

外部リンク

在フィリピン日本国大使館
在日フィリピン共和国大使館

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