池田頼方

池田頼方（いけだよりかた／よりまさ）は、江戸時代後期の幕末にあたる時期に活躍した旗本です。その官位は従五位下播磨守に叙されました。多岐にわたる要職を歴任しましたが、特に江戸南町奉行や勘定奉行を務め、動乱期の幕政に関与しました。

出自

池田家の祖は、もともと下間氏出身の下間頼龍とされています。しかし、その息子である頼広は、縁戚関係にあった池田輝政に付き従い、後に池田重利と名を改めました。彼は徳川家康から播磨新宮藩一万石を与えられ、大名となりました。しかし、その曽孫にあたる邦照が若くして亡くなったため、この家系は一旦改易となります。邦照の弟である重教は三千石を与えられ、これ以後、池田家はこの旗本として家名を継承し、頼方の代まで続きました。

経歴

池田頼方は、池田頼功の子として生まれました。文化11年（1814年）に14歳で家督を継承。寄合の身分でしたが、天保3年（1832年）8月には火事場見廻を兼務し、「隼人」と名乗ります。翌天保4年（1833年）9月には寄合肝煎へと移り、天保7年（1836年）9月には西丸（当時は世子の徳川家慶、後に将軍となり、次期世子徳川家祥付きとなる）の目付に就任しました。この在職中に名を「将監」と改めました。

天保8年（1837年）11月には浦賀奉行に、天保12年（1841年）9月には奈良奉行へと異動しました。奈良奉行在任中に従五位下に叙され、播磨守に任官しました。この時点での石高は三千石でした。

弘化3年（1846年）1月、普請奉行に移り、嘉永元年（1848年）11月には勘定奉行（公事方）に就任。嘉永3年（1850年）7月には道中奉行も兼ねるようになりました。同年、関東取締出役によって捕らえられ、江戸の勘定奉行役宅へ護送されてきた上州の侠客、国定忠治を尋問し、死刑（磔）を申し渡しています。また、翌嘉永4年（1851年）には老中阿部正弘の命により、寺社奉行の脇坂安宅や江戸南町奉行の遠山景元らと共に、恩赦に関する正式な制度「赦律」の制定作業に携わりました。

嘉永5年（1852年）3月には、遠山景元の辞任を受けて江戸南町奉行に就任しました。在任中の安政2年（1855年）3月、江戸城で発生した御金蔵破り事件では、盗まれた四千両の犯人探索にあたりましたが、すぐには発見できませんでした。犯人は二年後の安政4年（1857年）に加賀で捕らえられ、頼方の申し渡しにより磔刑に処されました。同年5月、幕府における序列が留守居次席となり、12月には大目付へと異動、海防掛も兼務しました。翌安政5年（1858年）2月には鉄炮改も兼任。同年7月には幕府の上使として、前水戸藩主徳川斉昭に対し、不時登城の罪で謹慎を申し渡す役目を果たしました。そして同年10月、再び江戸南町奉行に就任しました。この時の序列も再び留守居次席となりました。

安政6年（1859年）2月、勘定奉行公事方を再び兼帯することとなりました。この人事は大老井伊直弼の意向が強く働いたものとされます。井伊直弼は、飯泉喜内逮捕をきっかけに安政の大獄を開始しますが、志士の捕縛打ち切りを主張した寺社奉行板倉勝静や勘定奉行佐々木顕発を罷免し、後任の勘定奉行として頼方を起用しました。頼方は、寺社奉行、町奉行、勘定奉行、大目付、目付からなる「五手掛」の一員として、志士たちの吟味・裁断において中心的な役割を担いました。特に吉田松陰の取り調べにあたり、同年10月16日に評定所で行われた口書（供述調書）の読み上げの際、松陰が異議を唱えたため、激しい議論となったと伝えられています。10月27日に松陰に言い渡された判決では、頼方は流罪が相当であると主張する書面を井伊直弼に提出しましたが、直弼の裁可によって覆され、判決文は死罪と書き改められたとされています。

万延元年（1860年）3月3日、井伊直弼が桜田門外の変で暗殺された後も、幕府は五手掛による評定で政務を進め、町奉行からは頼方が評定所の構成員となりました。同年12月には、アメリカ総領事ハリスの通訳官ヘンリー・ヒュースケンが殺害された事件の犯人捜索を命じられています。翌文久元年（1861年）5月、病気を理由に役職を辞し、寄合の身分に戻りました。

文久2年（1862年）10月、寄合肝煎に再び就任しましたが、11月には飯泉喜内の吟味に問題があったとされ、寄合肝煎差控となり寄合に戻されました。それでも翌文久3年（1863年）10月には、三度目の寄合肝煎に就任。元治元年（1864年）7月には書院番頭（二番組）へ移り、そのわずか四日後には江戸北町奉行へと異動し、町奉行としても三度目の就任を果たしました。翌元治2年（1865年）2月には、序列も三度目の留守居次席となりました。

慶応2年（1866年）6月、御役御免となり、勤仕並寄合となりました。これ以降の消息は不明ですが、明治9年（1876年）2月17日に76歳で亡くなったことが確認されています。嫡男の頼之が嘉永6年（1853年）に早世していたため、安政7年（1860年）2月、武蔵金沢藩主米倉昌寿の七男を養子として迎え、娘の倭子と婚姻させ、池田頼誠と名乗らせて家督を継がせました。

人物像・逸話

池田頼方は江戸町奉行を三度務めた、他に例を見ない人物です。また、江戸町奉行でありながら勘定奉行を兼帯した時期があったことも、鳥居耀蔵などごく数例しかない稀有な事例として知られています。木村芥舟は頼方について、「体格が大きく、性質は闊達で声がよく響き渡り、特に裁判の腕に優れていた」と評しています。さらに、「罪を犯した者に対しても、時には厳しく叱りつけ、あるいは冗談を交えながらも、要点を逃さず、皆が納得して裁きに従った」と伝えられており、その精力的で魅力的な人物像がうかがえます。

家族・墓所

父：池田頼功
正室：九鬼隆国の娘
男子：頼之（1828年 - 1853年）
女子：倭子（池田頼誠の正室）
養子：池田頼誠（米倉昌寿の七男）

墓所は東京都台東区の大雄山海禅寺にあります。法名は普聞院殿圓應萬籟居士。次々代の頼秀以降は青山霊園に墓所があります。

参考文献・登場作品

国史大辞典編集委員会編『国史大辞典 7 しな - しん』吉川弘文館、1986年。
木村礎・藤野保・村上直『藩史大事典第5巻近畿編』雄山閣、1989年。
小川恭一『寛政譜以降旗本家百科事典第1巻』東洋書林、1997年。
丹野顯『江戸の名奉行』新人物往来社、2008年。
安岡昭男編『幕末維新大人名事典上巻』新人物往来社、2010年。
竹内誠編『徳川幕臣人名辞典』東京堂出版、2010年。

小説：北康利『蘭学者川本幸民近代の扉を開いた万能科学者の生涯』PHP研究所、2008年。
* テレビドラマ：『花神』（1977年 NHK大河ドラマ、演：久松保夫）。

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