茂谷山 (能代市)

茂谷山（もややま）

茂谷山は、秋田県能代市に位置する標高〇〇mの山です。遠方から眺めると、米代川南方の台地上に美しくそびえ立つ三角形の山容が印象的です。

特徴

能代市の鶴形、大台野地区の林道を進むと、登山口となる標柱と鳥居が現れます。そこから約15分程度で山頂に到達できる手軽さが魅力です。山頂には四等三角点があり、小学校の登頂記念碑、嘉永3年の石灯籠、石碑、そして神社が鎮座しています。山頂からは、能代の街並みはもちろんのこと、世界遺産の白神山地まで遠望できる絶景が広がります。

かつては、能代市の鶴形地区と二ツ井町の富根地区の境界に位置し、両地区の住民が参拝に訪れていました。

茂谷山の北側には、里山林保全整備事業「湯ノ沢」があり、住民の憩いの場、また教育の場として里山が整備されています。育成の森、探検の森、実りの森、記念の森の4つのエリアに分かれており、それぞれの森を徒歩で移動できる林道や、四阿、トイレなどが整備されています。旧富根小学校の学校林もこのエリアにあります。

エヒバチ長根窯跡

茂谷山の北東、ため池の近くには、鎌倉時代前半の窯跡であるエヒバチ長根窯跡があります。古くから、すり鉢（エヒバチ）に似た陶器の破片が発見されていたことから、この名で呼ばれていました。発掘調査の結果、標高70-75mの斜面に南北方向に掘られた3基の窯跡が確認され、甕、鉢、片口鉢、四耳壺、経筒容器など、約8種類の器種が生産されていたことがわかっています。

この規模の窯を維持するためには、有力な支配者や経済基盤の存在が推測されます。ほぼ同時期に近隣の高岩山が山岳仏教の盛地であったことからも、関連性が考えられます。高岩山からは、径甕（秋田県指定文化財）や四耳壺が出土しています。また、茂谷山周辺には「瓶長根」や「瓶ノ沢」といった地名も残されています。

昔、この地の住民が茂谷山付近の茂谷沢で山仕事をする際、空腹を満たすために山芋を掘り、山腹に捨てられていたエヒバチ（擂鉢）の破片で山芋をすりおろして食べていたという逸話があります。少なくとも江戸時代末期から明治時代初期には、住民はエヒバチの破片が捨てられていることを認識していたことがわかります。発見当初は、最北の須恵器窯跡として知られていました。その後、十三湊の安東氏関連遺跡から出土した須恵器が蛍光X線分析法で、この遺跡からのものであることが判明し、遺跡調査の機運が高まりました。1988年（昭和63年）10月には発掘調査が行われ、14本のトレンチ調査の結果、3本の窯跡が発見されました。既に持ち去られたものも多く、「昔に比べれば無いも同然」と言われながらも、大量の土器片が発掘されました。考古学磁気年代検査によると、1230年（寛喜2年）-1245年（寛元3年）±20年頃に作られたものと推定されています(12-13世紀の年代測定が100年ほど新しくなる可能性も示唆されています)。

出土した須恵器は、かつて能代市二ツ井町歴史資料館に展示されていましたが、歴史資料館は高速道路建設のために閉館となりました。その代わりに、高岩山から発掘された経甕は、新しく建設された道の駅ふたついに展示されています。

本窯から出土された陶器は、高岩山の五輪台経塚の他、二ツ井町切石の大倉遺跡、大館市の前田舘遺跡、十二所舘跡、長森遺跡、雄物川流域では秋田市の河口城の下タ野遺跡や、横手市閑居長根経塚、山形県飽海郡遊佐町の大楯遺跡などでも少数ながら確認できます。一方、本窯と同時期と比定される大館市矢立廃寺跡から出土した陶器は珠洲製品であるとされています。

山田秀三のアイヌ語地名研究

地名研究家の山田秀三は、著書『東北・アイヌ語地名の研究』の中で、青森県から秋田県にかけて、いくつかの「モヤ山」に出会ったことを記しています。これらの山は、いずれも独立した小山で、三角形や円頂状の目立つ形状をしており、印象に残るといいます。それらは、「茂谷山」や「靄山」、「雲谷山」などの字で表記されています。山田は、アイヌ言語学者の知里真志保に尋ねたところ、アイヌ語の「モイワ」（小さな岩山）がなまったものだと説明を受けました。

十三湖と小湊町の間にある靄山、藤里町の茂谷山、田沢湖の南に位置し湖に突き出す形になっている靄森山、青森県の八甲田北部にある雲谷山などが例として挙げられています。この他にも鹿角市に茂谷山、八峰町には母谷山があり、その形状に共通性が見られます。ただし、能代市の茂谷山は、アイヌ語の「モイワ」としては大きすぎるという指摘や、モイワは平地の続きの丘にあることが多いという点から、例外的な存在であるとも言えます。しかし、山田秀三は、見る位置を変えると、この山もそのように見えると述べています。

菅江真澄の記録

江戸時代の紀行家、菅江真澄は1806年（文化3年）に、『霞む月星』の中で、知人らと連れだって茂谷山に登った時の様子を記録しています。菅江真澄は「もやは丘ではなく、たいそう高くひとつだけそびえている山をいうのであろう。靄とは雲・霞・霧・微雨をすべて含む方言であった」と述べ、「もやの名は松前・津軽にもあり、秋田路では八森の浦にもある」として、八峰町の母谷山のことを指摘しています。真澄が山頂に到着すると、そこは窪地になっており、石室の中に薬師仏が安置されていました。山頂からは、東に森吉山、西に男鹿の島山（男鹿半島）、白神岳、馬背内（真瀬岳、鹿瀬内岳？）などの山々が雪を頂き、真白に連なっているのが見えましたが、風が凍るように寒く吹き荒れていたため、真澄たちは下山することにしました。

古川古松軒の記録

古川古松軒は、著書『東遊雑記』に茂谷山と思われる山の記録を残しています。「飛根の城跡 出羽国秋田城の東辺、津軽藩に近いところに鶴形、飛根という場所がある。ここは津軽の堺になっている場所で、山の姿や川の流れがすこぶる要害の地形になっている。しかし、このあたりは山が甚だ高くはなく、川を前にしたり、山が相対する形になったり、数里が一望に見晴らしがよく、全て山の上がきわめて平らになっていて、古城の跡が厳然と備わっている。しかし、他の古城と違い面積が甚だ広大で十町、二十町と連なっている。中に一山高く四面は山の姿が堤のように巡ることができるものがある。…」

蝦夷のチヤシ長城説

『二ツ井町史』（昭和52年）には「飛根の長城」と題して、茂谷山周辺の台地に城跡の伝説が記述されています。これは『羽後の伝説』（昭和51年）にも記述されている伝説で、元は『秋田の城』に記述されたものです。それには、富根のモヤ台は、七世紀に蝦夷の族長トポナがチヤシ（防塁）として築いた長城の跡だという説が記述され「馬蹄型山城を中心に大小のチヤシが米代川沿岸にあった。阿部比羅夫が能代に上陸、米代川をシャモ（和人）の大軍が進み草原に攻めこんだ。族長トポナは神威の宣託にしたがって、阿倍比羅夫と駒形で講和会見した後、一頭の鹿毛の馬にのって遠く姿を消し、チヤシ長城はほろびた。」とされています。しかし、阿倍比羅夫が米代川をさかのぼったということは歴史書にははっきりと記録されていません。

参考文献

『東北・アイヌ語地名の研究』、山田秀三、草風館、平成5年、IBSN4-88323-063-5
『霞む月星』、菅江真澄

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