大伴氏

大伴氏（伴氏）の歴史と系譜

大伴氏、後の伴氏は、古代日本の歴史において重要な役割を果たした氏族です。その起源は、天孫降臨の際に神武天皇の先導役を務めたとされる天忍日命の子孫にまで遡ると伝えられています。摂津国住吉郡を本拠地とし、佐伯氏とは血縁関係が深いとされています。両者の関係については、大伴氏が佐伯氏を分家とする説と、その逆の説が存在します。平安時代初期には、淳和天皇の諱を避けるため、氏名を伴氏へと改めました。

祖先と初期の活動

大伴氏の祖先は道臣命とされ、来目部や靫負部といった軍事的な部民を率いていたと推測されています。このことから、物部氏と共に朝廷の軍事組織を掌握していたと考えられています。しかし、両氏族の役割には違いがありました。物部氏が国軍的な役割を担っていたのに対し、大伴氏は宮廷警護、近衛兵のような役割を担っていたとされています。

大伴氏の拠点については、古くは摂津国・河内国の沿岸部にあったと考えられています。大伴金村の屋敷があった住吉は、ヤマト王権の重要な港・住吉津が存在した場所であり、万葉集にも大伴氏の浜辺が詠まれています。しかし、道臣命が神武東征の功績により大和国高市郡に土地を与えられたという記録や、大伴氏の別荘が大和国にあったことなどから、大和国磯城・高市地方にも拠点があったと考えられます。和歌山県にも大伴氏の祖先神大伴武日の古墳が存在し、和歌山城周辺を領有していたという説もあります。実際、和歌山県には大伴氏の末裔を称する一族が多く残っています。

全盛期と衰退

5世紀後半、大伴室屋が雄略天皇の時代に大連となり、それまで勢力を誇っていた葛城氏に代わって大伴氏が台頭しました。大伴金村の時代には全盛期を迎え、5代にわたって大連の地位を継承しました。金村は継体天皇の即位に貢献するなど、ヤマト王権において確固たる地位を築きました。しかし、任那の運営を任されていた金村は、欽明天皇の時代に任那4県の百済への割譲を巡り、物部氏から失政を咎められ、失脚しました。

その後も大伴氏の勢力は衰えず、大伴磐、大伴咋、大伴狭手彦らが要職に就き、大化の改新後も大伴長徳が右大臣に任じられるなど、朝廷において重要な役割を担い続けました。壬申の乱では、大伴馬来田・吹負兄弟が活躍しました。奈良時代には、大伴御行、大伴安麻呂、大伴旅人など、多くの公卿を輩出しました。平城宮南大門は「大伴門」と呼ばれ、後に朱雀門と改称されました。

大伴氏からは、大伴安麻呂、大伴旅人、大伴家持、大伴坂上郎女といった著名な万葉歌人も輩出しています。遣唐副使を務めた大伴古麻呂は、鑑真を密航させて日本に招いています。
しかし、奈良時代から平安時代前期にかけて、藤原氏の台頭により、大伴氏は徐々に勢力を失っていきました。長屋王の変、橘奈良麻呂の乱、藤原種継暗殺事件など、朝廷の政争に巻き込まれ、多くの犠牲者を出しました。

平安時代初期には、大伴弟麻呂が征夷大将軍として活躍しましたが、藤原種継暗殺事件を機に、大伴氏の勢力は大きく衰えました。淳和天皇の即位を機に、諱を避けて伴氏と改称しました。承和の変にも関与したとされる人物はいましたが、大きな打撃を受けることはありませんでした。その後も、伴善男が大納言に昇るなど、時折活躍する人物が現れましたが、藤原氏や他の氏族の台頭により、次第に勢力を失っていきました。

平安時代中期以降と末裔

平安時代中期以降、伴氏は公卿を輩出することが少なくなり、多くの者は地下官人などとなりました。戦国時代頃までは、佐伯氏、和気氏、百済王氏とともに、天皇即位などに際して氏爵を受ける氏族とされていました。伴氏の末裔を称する氏族としては、鶴岡八幡宮の神職を務めた鶴岡社職家、大隅国の豪族である肝付氏、三河国の豪族である三河伴氏、近江国の豪族で滝川氏を称した甲賀伴党、伊豆国の豪族である伊豆伴氏、甲斐国の豪族である市部氏などが挙げられます。

大伴氏（伴氏）の系図については、いくつかの異説が存在します。正確な系図の解明には、さらなる研究が必要とされています。

参考文献

太田亮 著「国立国会図書館デジタルコレクション 大伴　オホトモ」、上田萬年、三上参次監修 編『姓氏家系大辞典』 第1巻、姓氏家系大辞典刊行会、1934年
太田亮 著「国立国会図書館デジタルコレクション 伴　トモ　バン」、上田萬年、三上参次監修 編『姓氏家系大辞典』 第2巻、姓氏家系大辞典刊行会、1934-1936
太田亮『姓氏家系大辞典』（角川書店、1963年）
佐伯有清編『日本古代氏族事典』（雄山閣出版、1994年）
宝賀寿男『古代氏族系譜集成』（古代氏族研究会、1986年）
宝賀寿男『大伴氏―列島原住民の流れを汲む名流武門 (古代氏族の研究)』（青垣出版、2013年）

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