ペルーの歴史

ペルーの歴史は、先コロンブス期のアメリカ大陸における高度な文明の発達から始まり、インカ帝国の繁栄と滅亡、スペインによる植民地支配、そして独立後の混乱と再建という複雑な過程を経て、現代に至っています。

紀元前1000年頃から紀元前200年頃にかけて、アンデス山脈全域でチャビン文化が栄えました。ネコ科動物や蛇、コンドルなどを神格化したこの文化は、アンデス文明の基礎を築きました。その後、海岸部ではモチェ文化（100年頃～700年頃）が「太陽のワカ」「月のワカ」を建設し、ナスカ文化（1年頃～600年頃）が地上絵を描きました。800年頃には、アヤクーチョ盆地でワリ文化が興隆し、ティワナク文化の影響を受けつつ、土器や織物、道路整備、都市建設などでアンデス全域に影響を及ぼしました。ワリ文化の終焉と重なるように、コスタ北部ではシカン文化が金製の豪華な仮面で知られるようになり、その後、チムー王国が勢力を拡大しました。首都チャン・チャンの人口は25,000人を越え、王宮が次々と建設されました。

タワンティン・スウユ（インカ帝国）の繁栄と滅亡（1438年-1533年）

15世紀になると、クスコ周辺の山岳地帯を支配していたケチュア族の王パチャクテクが軍事的に統一を進め、タワンティン・スウユ（インカ帝国）が成立しました。インカ帝国は、征服戦争によって急速に勢力を拡大し、トゥパク・インカ・ユパンキの時代にはチムー王国を、ワイナ・カパックの時代にはアンデス北部最大の都市キトを征服しました。ワイナ・カパックはさらにマプーチェ族と戦い、チリのサンティアゴ周辺、アルゼンチン北西部までを支配下に置き、インカ帝国は最大版図を築きました。

インカ帝国はクスコを首都とし、現ボリビアのアイマラ族の諸王国、チリ北部から中部、エクアドル全域、アルゼンチン北西部を支配し、その影響力はコロンビア南部にまで及んでいました。インカ帝国は、高度な社会システムを構築しており、1200万人以上の人々が自活できる体制を整えていました。文字を持たない文明でしたが、キープと呼ばれる縄で数の管理を行い、巨石建築には高度な技術が用いられていました。

16世紀初め、ヨーロッパからの疫病が流行し、ワイナ・カパックが病死すると、後継者争いが起こり、キト派のアタワルパとクスコ派のワスカルの内戦が勃発しました。内戦はアタワルパの勝利に終わりましたが、その疲弊を突いて、スペイン人のフランシスコ・ピサロ率いる征服者たちが侵攻してきました。1532年、ピサロはカハマルカの戦いで皇帝アタワルパを捕らえ、身代金を取った後に処刑しました。1533年にはクスコを征服し、インカ帝国は崩壊しました。その後、スペイン人はクスコとリマを建設し、リマがペルーの中心地となりました。

ペルーの征服とビルカバンバのインカ政権（1533年-1572年）

ピサロは、傀儡としてマンコ2世をインカ皇帝に据えましたが、マンコ2世はスペインに反旗を翻し、クスコを包囲しました。しかし、包囲は解かれ、クスコは再征服されました。マンコ2世はオリャンタイタンボに撤退し、さらにビルカバンバへと拠点を移しました。マンコ2世の死後、ビルカバンバ政権とスペインとの間で宥和政策が続きましたが、1571年に即位したトゥパク・アマルーが主戦論を唱えたため、スペイン軍に敗れて処刑され、インカ帝国は完全に滅亡しました。

スペイン植民地時代（1542年-1824年）

1542年、ペルー副王領が設立され、行政の中心はリマに移されました。リマはスペインの南アメリカ支配の拠点として栄え、1550年にはサン・マルコス大学が設立されました。植民地支配は、エンコメンデーロと呼ばれる征服者による支配から、コレヒドールと呼ばれる地方行政官による支配へと移行しました。コレヒドールは、レパルティミエントと呼ばれる強制的な商品分配やミタ制と呼ばれる賦役を通じて、インディオを搾取しました。ポトシ銀山でのミタは、多くのインディオの命を奪いました。また、カトリック教会が布教活動を行い、キリスト教が広められました。

ポトシ銀山は、1545年に発見され、豊富な銀を産出しましたが、その採掘のために多くのインディオが強制労働に従事させられました。銀はスペインに送られ、ヨーロッパの価格革命を支える原動力となりました。一方、植民地ではクリオーリョ（現地生まれの白人）が、インディオ、メスティーソ、黒人を支配する社会構造が形成されました。このような支配に対し、インディオやメスティーソはインカ王権にアイデンティティを求め、反乱を繰り返しました。1780年には、トゥパク・アマルー2世が大規模な反乱を起こしましたが、鎮圧されました。

1717年にはヌエバ・グラナダ副王領がペルー副王領から分離され、1776年にはリオ・デ・ラ・プラタ副王領が設立されました。これにより、ペルーは周辺地域に比べて相対的に衰退していきました。

独立戦争（1810年-1824年）

19世紀に入り、ナポレオン戦争によってスペイン本国が混乱すると、インディアス植民地各地で自治運動が起こりました。しかし、ペルーではトゥパク・アマルー2世の反乱の記憶から自治運動は進展せず、ペルー副王は自治派を鎮圧しました。

アルゼンチンのホセ・デ・サン・マルティン将軍は、チリを解放した後、海路でリマを攻略し、1821年にペルーは独立を宣言しました。しかし、副王政府はシエラで抵抗を続けました。1822年、サン・マルティンはシモン・ボリーバルと会談し、ペルーの解放をボリーバルに託しました。1824年、ボリーバルはフニンの戦いでスペイン軍に勝利し、アントニオ・ホセ・デ・スクレがアヤクーチョの戦いでスペイン軍を破り、ペルーは事実上独立を果たしました。1826年、カヤオ要塞のスペイン軍が降伏し、スペインの支配は完全に終わりました。

カウディーリョの時代（1824年-1884年）

独立後のペルー政治は、カウディーリョと呼ばれる軍事指導者による支配が続きました。その中でもホセ・デ・ラ・マール、アグスティン・ガマーラ、アンドレス・デ・サンタ・クルスが有力でした。彼らは周辺国との戦争を繰り返し、内政は安定しませんでした。

サンタ・クルスは、1836年にペルーを征服し、ペルー・ボリビア連合を成立させましたが、チリやアルゼンチンの介入により、1839年に連合は崩壊しました。その後、ガマーラがペルー大統領に就任し、ボリビアに侵攻しましたが、敗れて戦死しました。1845年、ラモン・カスティーリャが大統領に就任すると、ペルーの内政は安定を迎え、グアノの輸出によって経済開発が進められました。

1879年、ペルーはボリビアとの同盟によりチリと太平洋戦争を戦いました。しかし、ペルーはチリに敗北し、南部の領土を割譲しました。太平洋戦争の敗戦後、ペルーは再建の道を歩み始めました。

敗戦後の再建と貴族共和制

太平洋戦争後、ペルーはイギリス資本に依存した経済開発が進められました。1895年にはニコラス・デ・ピエロラが大統領となり、「貴族主義的共和国」と呼ばれる時代が始まりました。ピエロラ政権下では、国家主導の開発政策が実施され、地方自治の拡大、公正な選挙の実施、軍制改革などがなされました。

20世紀初頭には、外資主導の経済開発の中で労働運動が始まりました。1908年には、アウグスト・レギーアが大統領に就任し、20年にわたり権力を掌握しました。1912年には、労働者保護法を制定したギジェルモ・ビイングルスト政権が成立しましたが、軍事クーデターで倒されました。第一次世界大戦後には、アナルコ・サンディカリスム系列の労働運動や学生運動が高揚しました。

オンセニオ(1919年-1930年)

1919年、アウグスト・レギーアが再び大統領に就任し、1930年まで続いた第二次レギーア政権は「オンセニオ」と呼ばれます。レギーアは、公共事業を進め、アメリカ合衆国との友好関係を築きましたが、世界恐慌によって失脚しました。

この時期には、サン・マルコス大学の学生運動が大きな影響力を持ち、ビクトル・ラウル・アヤ・デ・ラ・トーレがアメリカ革命人民同盟（APRA）を創設しました。また、ホセ・カルロス・マリアテギがペルー社会党を創設しました。文学界では、インディヘニスモ運動が盛んになり、シロ・アレグリアやホセ・マリア・アルゲダスといった作家が登場しました。

APRAと軍部

世界恐慌後、ペルーの政治は不安定になり、APRAのアヤ・デ・ラ・トーレとサンチェス・セロの対立が激化しました。1932年にはトルヒーヨでAPRAによる武装蜂起が起こり、軍部が虐殺で報復する事件が発生しました。

サンチェス・セロ大統領暗殺後、オスカル・ベナビデスが臨時大統領となり、APRAとの協調を図りましたが、APRAは妥協せず、ベナビデスはAPRAとの対決を選びました。1939年には、マヌエル・プラードが大統領に就任し、第二次世界大戦に連合国側で参戦しました。日系ペルー人が弾圧され、強制収容所に送られました。1941年には、エクアドルと国境紛争を行い、領土を獲得しました。

1945年には、APRAが合法化され、ブスタマンテ政権が誕生しましたが、1948年に軍事クーデターで倒されました。1956年には、第二次マヌエル・プラード政権が成立し、輸入代替工業化が進められました。1962年の大統領選挙で不正が発覚し、軍事クーデターが起こり、農地改革が実施されました。1963年には、ベラウンデ・テリーが大統領に就任しましたが、農地改革は不十分で、ゲリラ運動が激化し、1968年には軍事クーデターで追放されました。

ペルー革命(1968年-1980年)

1968年、フアン・ベラスコ・アルバラード将軍による軍事クーデターが起こり、ペルー革命が始まりました。ベラスコ政権は、反米と自主独立を掲げ、IPCを国有化し、徹底的な農地改革を実施しました。企業国有化やスラムの組織化も進められましたが、1973年にベラスコ将軍が病に倒れ、経済も悪化し、1975年に失脚しました。モラレス・ベルムデスが後継者となり、改革からの後退が始まりました。1980年には民政移管が行われ、ベラウンデ・テリーが再び大統領に就任しました。

民政移管とペルー内戦(1980年- )

ベラウンデ政権下では、災害や経済危機が多発し、センデロ・ルミノソやMRTAといった左翼ゲリラが台頭しました。1985年には、アラン・ガルシアが大統領に就任しましたが、経済政策は失敗し、ハイパーインフレが発生しました。1990年には、アルベルト・フジモリが大統領に当選し、新自由主義的な改革と強権的な政策を実行しました。フジモリは、ゲリラ組織を壊滅に追い込みましたが、独裁的な政治手法が批判されました。1998年にはエクアドルとの国境紛争に勝利しました。2000年にフジモリは辞任し、2001年にアレハンドロ・トレドが大統領に就任しました。

2006年にはアラン・ガルシアが再び大統領に就任し、貧困層の生活水準向上に取り組みました。しかし、政治腐敗は根深く、社会不安は続いています。

ペルーの歴史は、先コロンブス期の高度な文明から始まり、インカ帝国の繁栄と滅亡、スペインによる植民地支配、独立後の混乱と再建、そして内戦という複雑な過程を経て現代に至っています。その歴史は、ペルーの社会、文化、政治、経済に深く刻み込まれており、今後のペルーを理解する上で重要な鍵となります。

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