京都丹波高原国定公園

京都丹波高原国定公園

京都丹波高原国定公園は、京都府の南丹市、綾部市、京丹波町、京都市左京区・右京区にまたがる広大なエリアに位置する国定公園です。2016年に指定され、丹波高原の豊かな自然と文化を保護・継承することを目的に設立されました。

地理的特徴

丹波高原は、日本海側と太平洋側を分ける脊梁山脈の一部であり、国定公園はその移行部に当たります。年間降水量が2000mmと多く、多様な植生が見られます。ブナ林、常緑広葉樹林、針葉樹林が入り混じり、スギ、ブナ、ミズナラ、アシウスギなどの自然林が広範囲に分布しています。また、カシ、モミ、ツガ、ヒノキ、カエデ、モミジなど様々な樹木や、コシアブラ、ウリノキ、ミヤマシキミなどの低木、ミヤマカタバミ、イワウチワ、クリンソウなどの野草が生息しており、四季折々の花が楽しめます。

生物多様性

植物だけでなく、動物相も豊かです。南方系と北方系の昆虫が共存し、蝶の群生地やアサギマダラの休憩地にもなっています。哺乳類ではニホンカモシカ、鳥類ではイヌワシなどの希少種も生息しており、多様な生態系が維持されています。

歴史と文化

この地域は、自然と人間の共生を重視した文化が育まれてきました。伏条台杉や北山杉による林業景観、里山の集落、山間部を貫く鯖街道、寺社境内の植生など、自然と宗教が一体となった文化的な景観が特徴です。また、人造湖などの人工物も景観の一部として含まれています。

「森の京都」

京都府は、この国定公園域を「森の京都」と位置づけ、日本海側の「海の京都」と対比させています。京都市内の社寺を中心とした文化財とは異なる魅力を発信し、観光客の分散を図ることを目指しています。地域住民は、森林がもたらす恩恵を享受し、独自の文化を形成してきました。

指定地域と主要対象

国定公園は、以下のエリアに区分されています。

美山エリア（南丹市）： かやぶきの里として知られる北村や芦生研究林、八ヶ峰などが含まれます。
綾部エリア（綾部市）： 頭巾山、光明寺などが含まれます。
京丹波エリア（京丹波町）： 長老ヶ岳が含まれます。
左京区北部エリア（京都市左京区）： 久多の山村集落、八丁平、大悲山、花脊高原などが含まれます。
* 右京区北部・天若湖エリア（京都市右京区・南丹市）： 寺山、日吉ダム、府民の森ひよしなどが含まれます。

これらの地域は、さらに特別地域（第1種～第3種）と普通地域に区分され、それぞれ保護・管理の方針が定められています。

地形と地質

丹波高原は、3億年前から1億5千万年前に形成された丹波層と呼ばれる地層から成っています。隆起や断層運動によって現在の地形が形成され、花崗岩や石灰岩などの地質が露出しています。これらの地質が、川の流れや湧き水などの特徴的な景観を生み出しています。

地域史

この地域は、歴史的に様々な行政区分に属していました。中丹、南丹、京丹と呼ばれ、それぞれ山陰道や山城国に区分されていました。平安時代には山国荘として開拓が進められ、江戸時代には複雑な幕藩体制のもとに置かれていました。近年では、天皇の即位に関わる大嘗祭に奉納される米の産地としても選ばれています。

文化・歴史的背景

古くは「太邇波」と呼ばれた丹波高原は、水田を支える重要な役割を果たしていました。『長屋王家木簡』には、山国郷から米が届けられていた記録があり、その歴史の古さを物語っています。また、『続日本紀』には、錫を産出したという記録もあり、資源豊かな地域でもありました。

中世には、京の都に近いことから文化的な影響を受けつつ、独自の文化を形成していました。『人国記』には、丹波の民の気質が都の影響を受けていると記述されています。江戸時代には、多くの地誌が編纂され、丹波高原の自然や文化が詳細に記録されています。

民俗誌

柳田國男は、由良川流域の地名に「島」が付くものが多いことから、この地域が古い時代の独立性を示していると指摘しました。白洲正子は、花脊の火祭りが自然と密接な関係にあることを示唆し、司馬遼太郎は、山伏・修験者の世界であると述べています。田中淳夫は、山国荘の杣が日本の木造建築の原点であると説き、田嶋謙三は、北山杉林業が地域資源を利用してきたと指摘しています。

信仰・祭礼

国定公園内では、鞍馬の火祭りと同様の「松上げ」と呼ばれる火祭りが各地で行われています。これは、山火事を警戒する愛宕信仰に由来するとされ、地域住民によって行われます。また、林業の門扉に愛宕神社のお札が貼られていたり、山の神を祀る習慣も残っています。大原では、川流しで木材を運搬したことにちなみ、河童由来の神を祀る神社もあります。

家屋

国定公園内には、茅葺き屋根の家屋をはじめ、地域ごとに多様な建築様式が見られます。切妻造の家屋が基本で、茅葺きからトタン葺きに変化しているものの、その構造は維持されています。また、壁や外塀をベンガラで赤く塗る習慣があり、魔除けの意味合いがあります。

水と灌漑

丹波高原は、ブナ林が育む腐葉土と地層によって濾過された名水が湧き出ています。これらの水は、桂川や由良川へと注ぎ込み、豊かな生態系を支えています。山国荘では、古くから用水路が設けられ、生活用水や農業用水として利用されてきました。

地場産業

主要産業は林業で、木材や木工製品、炭などが生産されています。また、和蝋燭の原料となるハゼノキの栽培や養蜂、アブラナの栽培も行われていました。綾部では、茶の栽培や養蚕が奨励され、和紙や薬草、粽用の笹などの資源も利用されてきました。さらに、石灰岩や砥石、マンガン、タングステンなどの鉱物も採掘されていました。この地域は、持続可能な循環型社会を構築してきました。

食文化

山菜やキノコなどの山の幸を活かした食文化が特徴です。マツタケや丹波黒豆、丹波栗は地域ブランドとして知られています。また、栃餅などのトチの実を活かした食品も多いです。山間部ではソバや大豆も栽培され、味噌や納豆などの加工食品も作られてきました。近年では、京野菜や鮎料理、ジビエ料理なども楽しまれています。

舟運

桂川では、平安京造成時から木材を運搬する舟運が行われてきました。角倉了以によって河川改修が行われた後は、物資を運ぶための舟運が盛んになりました。近年になり、伝統技術の継承と観光資源として筏下りを復活させる試みも始まっています。

文芸・芸能

国定公園内は、人形浄瑠璃や歌舞伎の舞台にもなりました。また、浄瑠璃の節回しを旋律にした「浄瑠璃くずし丹波音頭」が地域に根付き、大杉太鼓を使った盆踊りも盛んです。

森林経営

この地域では、14世紀頃から計画的な植林が行われてきました。これは、世界最古の民需育成林業とされています。北山杉の林業は、林床にまで光が届くことで多様な生態系を育んでいます。林業遺産として、北山杉の営林地や関係施設が登録されています。

近年では、林業を観光資源として活用する動きもみられ、エコツーリズムやグリーンツーリズムが盛んになっています。「稼げる林業」を目標に、森林認証制度の適用や森林経営管理法の活用、地域おこし協力隊の導入など、持続可能な林業への取り組みも進められています。

環境破壊

ナラ枯れによるツキノワグマの減少、シカによる獣害、外来生物の侵入、ブラックバスによる生態系の破壊、茅葺屋根の減少による水質汚濁、治山ダムによる水生生物の遡上阻害、送電線鉄塔による景観破壊など、様々な環境問題も抱えています。また、北陸新幹線の延伸に伴う環境への影響も懸念されています。

世界遺産化運動頓挫

芦生の森を世界遺産に登録しようという運動がありましたが、大学や行政の合意が得られず、登録運動は立ち消えになりました。その結果、由良川のコンクリート護岸工事が進められ、茅葺屋根の文化資材となる茅場の一部が失われました。

持続可能性

人口減少や地域コミュニティの崩壊により、里山の存続が危ぶまれています。芹生の里のような消滅可能性集落も存在します。一方、過疎地域の限界集落でも、地域資源を活用した活動によって年間3千人超の訪問者がある事例もみられます。

その他の課題

京都市は財政再生団体に転落する可能性があり、文化・環境対策が後退する懸念があります。また、観光客の増加による水不足などの問題も発生しています。

その他の広報

JR西日本が「森の京都QRトレイン」の運行を開始するなど、観光客誘致に向けた取り組みも行われています。

域内を通過する主要道

国定公園内には、京都一周トレイル、近畿自然歩道、丹波散策の道などが整備されています。また、西の鯖街道も国定公園内を通過しています。

ガイダンス施設

道の駅美山ふれあい広場に、京都丹波高原国定公園ビジターセンターが開設され、公園の情報を発信しています。

まとめ

京都丹波高原国定公園は、豊かな自然と歴史、文化が調和した魅力的な地域です。しかし、環境問題や人口減少など、様々な課題も抱えています。今後、持続可能な社会を構築するため、地域住民、行政、観光客が協力して、この貴重な自然と文化を守り、次世代へと継承していくことが求められます。

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