洞院実守

洞院実守（とういん さねもり）

洞院実守は、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけての公卿で、波乱に満ちた生涯を送りました。左大臣・洞院実泰の四男として生まれましたが、庶兄である公賢の養子となります。父からの家門継承の期待を受けながらも、その願いは叶わず、南北朝の間を揺れ動くことになります。最終的には正二位・大納言（北朝）、右大臣（南朝）という官位にまで昇りつめました。

経歴

元亨4年（1324年）、11歳という若さで叙爵を果たします。その後、侍従、左近衛少将、春宮権亮、左近衛中将、蔵人頭といった要職を歴任し、嘉暦3年（1328年）9月には参議として公卿の仲間入りを果たしました。同年11月には、義父である公賢から賞を譲られ、従三位に叙されています。公賢は、洞院家の後継者として実守を考えていました。

元徳2年（1330年）4月には正三位、元弘2年/元徳4年（1332年）3月には権中納言へと昇進しますが、正慶2年/元弘3年（1333年）5月、光厳天皇の廃位に伴い、官職を失います。建武政権下の建武2年（1335年）正月には従二位に叙されますが、南北朝分裂後は北朝に仕え、建武4年/延元2年（1337年）12月に再び権中納言、建武5年/延元3年（1338年）正月には正二位、暦応2年/延元4年（1339年）12月には権大納言へと順調に昇進を重ねました。貞和4年/正平3年（1348年）10月に辞任し、観応元年/正平5年（1350年）11月には本座を許されています。

観応2年/正平6年（1351年）12月の正平一統の際には、南朝へ参候し権中納言に貶されますが、文和2年/正平8年（1353年）6月には南朝の行宮があった賀名生（奈良県五條市）へ赴きました。以降は南朝の公卿として、右近衛大将や内大臣を歴任します。

一方、京都の洞院家では、実守が南朝へ参候したことを機に、義父である公賢が後継者を実子の実夏に変更する手続きを行います。しかし、実夏と不仲になった公賢は、延文4年/正平14年（1359年）4月に出家すると、実守の北朝帰参を望むようになりました。同年12月、実守は密かに京都へ戻り、公賢から家督譲渡の意向を示されます。

翌延文5年/正平15年（1360年）に義父・公賢が亡くなると、家門の継承をめぐって甥・実夏と争うことになります。同年6月、後光厳天皇は実夏・実守による家領の分割を命じますが、南朝に仕えていた実守の家督継承に反対する室町幕府の意向もあり、9月には実夏への家門継承が決定されます。家門争いに敗れた実守は抵抗を続けましたが、康安元年/正平16年（1361年）2月には勅命によって洞院家家督の象徴である文庫の印鎰を没収され、同年12月の南朝軍入京による後光厳天皇の近江行幸の段階では、再び南朝へ参候し、右大臣にまで昇りつめました。しかし、貞治6年/正平22年（1367年）6月に実夏が亡くなると、再び家門を継承しようと8月に北朝へ帰参します。洞院家門をめぐる相論が再燃したため、室町幕府の意向に基づき、応安4年/建徳2年（1371年）には実夏の子である公定に家門継承を認める勅裁が下されました。家門のために南北朝間を往来した実守の行動は、近衛道嗣から「頗非忠貞之儀乎」と批判されています。

帰参した北朝では、応安3年/正平25年（1370年）3月に大納言に任じられますが、応安5年/文中元年（1372年）4月11日に薨去。死因は疫癘（伝染病）だったと伝えられています。

逸話

実守は雅楽に優れており、叔父の実明から琵琶を、母の康子から秦箏を相承しました。また、「万秋楽」の秘説を崇光上皇に授けたことでも知られています。漢詩にも長けていたようです。

『吉野拾遺』には、実守の鼻が非常に高かったため、紀伊国の田舎武士から「人ではない、天狗の類だろう」と恐れられたという逸話が残されています。

正平22年/貞治6年（1367年）9月、北朝に帰参して間もない実守のもとを大外記中原師茂が訪れ、南北朝合体の議について談合したという記録が『師守記』に残っています。

系譜

父：洞院実泰（1270-1327）
母：高倉康子（?-1349） - 高倉永康女
義父：洞院公賢（1291-1360）
妻：不詳
男子：洞院公信（?-?） - 従五位上侍従（北朝）、大納言（南朝）。室は洞院公泰娘
男子：洞院公益（?-?） - 左少将

脚注

参考文献

『大日本史料』6編35冊、応安5年4月11日条
橋本芳和 「洞院家の分裂について（Ⅰ）･（Ⅱ） ―元弘の乱に際して―」（『政治経済史学』第459・460号 日本政治経済史学研究所、2004年）
松永和浩「左馬寮領と治天・室町殿」『室町期公武関係と南北朝内乱』吉川弘文館、2013年 ISBN 978-4-642-02911-7

関連項目

魚魯愚鈔

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