内ヶ島氏

内ヶ島氏（白川氏）：飛騨白川郷を支配した一族の興亡

内ヶ島氏、または白川氏は、室町時代から戦国時代にかけて飛騨国白川郷を拠点とした氏族です。本拠地とした帰雲城は、現在の岐阜県大野郡白川村に位置していました。

歴史

白川郷への移封

内ヶ島氏の祖である内ヶ島季氏は、足利義満に仕える馬廻衆でした。その子・為氏の代に、足利義政の命により白川郷へ移り、向牧戸城を築いて本拠としました。白川郷は山間部に位置するものの、加賀や越中へ通じる要衝であり、内ヶ島氏は北陸地方の情勢に大きく影響を受けることになります。

応仁の乱が勃発すると、為氏は上洛し戦いに参加しました。

一向宗との戦い

応仁の乱終結後、白川郷に戻った為氏を待ち受けていたのは、新たな勢力の台頭でした。照蓮寺の住職であった教信が還俗し、三島将監と名乗って武士化し、内ヶ島氏に匹敵する勢力を築き上げていたのです。文明7年（1475年）、為氏は照蓮寺を急襲し、激戦の末に三島将監を自害させ、弟の明教も自害に追い込みました。これにより、一向宗の武力勢力は一時的に鎮圧されました。

その後、蓮如の仲介により、照蓮寺が内ヶ島氏の配下となることを条件に、明教の遺児である明心に照蓮寺の再興が許されました。以降、雅氏の代までは内ヶ島氏と本願寺は友好的な関係を保ちました。

外征

永正3年（1506年）、越後国の守護代・長尾能景が越中の一向一揆を鎮圧するため出陣しましたが、神保慶宗の裏切りにより討ち死にしました。跡を継いだ長尾為景は、神保氏と一向一揆を敵視し、永正17年（1520年）に越中へ侵攻、神保慶宗を討ち取りました。

越中を制圧した為景が加賀国へ侵攻する可能性を予測した本願寺は、雅氏に上洛を要請し、越中の情勢を分析させました。雅氏はこれに応じ、大永元年（1521年）に上洛しました。その間、本願寺の予測通り、越中の一揆勢は長尾・畠山氏連合軍によって次々と制圧されていきました。さらに、為景が加賀へ侵攻する姿勢を見せたため、照蓮寺に出陣が命じられました。照蓮寺はかねて内ヶ島雅氏と打ち合わせていた通り、雅氏の弟である内ヶ島兵衛大夫を大将として出陣しました。

専光寺軍と合流して越中で越年した内ヶ島勢は、為景に奪われた多胡城を奪還しようと試みました。大永2年（1522年）2月、一向一揆と多胡城を守る畠山軍との間で激戦が繰り広げられましたが、一揆軍は敗北し、照蓮寺・内ヶ島連合軍は壊滅、内ヶ島兵衛大夫も討ち死にしました。

翌年、本願寺と能登畠山氏の間で和睦が成立しました。

天文8年（1539年）には、近隣勢力との争いから三木氏とともに美濃国の郡上郡へ侵攻しましたが、美濃守護である土岐頼芸と隣国の近江守護六角定頼が本願寺の関与を疑い、本願寺の法主である証如に抗議する事態となりました。証如は、内ヶ島氏は本願寺の被官ではないとしつつも、現地の門徒が守護権力に迫害されることを恐れ、内ヶ島氏に撤兵を命じました。

戦国時代と繁栄

戦国時代に入ると、内ヶ島氏は領地を私物化し、鉱山経営によって財を成しました。本城である帰雲城の他に、向牧戸城、萩町城、新淵城など多くの支城を持つ戦国大名へと成長を遂げました。度々、姉小路頼綱や上杉謙信などの侵攻を受けましたが、これを撃退することに成功しました。

佐々成政が越中国に本拠を構えるようになると、氏理は織田信長率いる織田氏、そしてその配下である成政に従属しました。魚津城の戦いでは、織田軍と共に魚津城を陥落させる戦功を挙げました。しかし、本能寺の変で信長が明智光秀に殺害されると、停戦して飛騨へ引き返しました。

小牧・長久手の戦いでは、成政に属して越中へ出陣しましたが、その留守中に豊臣秀吉の命を受けた金森長近が白川郷へ侵攻してきました。長近は尾上氏綱が守る向牧戸城を落とすことができず、懐柔して寝返らせました。これにより、領民は金森軍に寝返り、帰雲城も占拠されました。この報を聞いた氏理は急ぎ帰還しましたが、既に手遅れであり、秀吉に降伏しました。しかし、内ヶ島氏の鉱山経営技術を重要視した秀吉は、所領を一部削減しただけで内ヶ島氏の領地経営を認めました。

天正地震から滅亡へ

所領を安堵されたことを祝うため、氏理は祝宴を催そうとし、一族や能楽師を帰雲城へ呼び寄せました。しかし、宴を翌日に控えた天正13年（1585年）11月29日、白川郷一帯を大地震、いわゆる天正地震が襲いました。帰雲山は山体崩壊を起こし、土石流は直下にあった帰雲城とその城下町を飲み込みました。町に出かけていた人々を除き、内ヶ島一族を含む領民は生き埋めとなり、死に絶えました。当時、城下町には300軒の家がありましたが、全て埋没しました。土石流は庄川を堰き止め、洪水も発生しました。この地震によって、内ヶ島氏は一夜にして滅亡してしまったのです。

その後

大名としての内ヶ島氏は滅亡しましたが、難を逃れた者もいました。氏理の弟である経聞坊ともう一人の弟は仏門に入っていたため、命拾いをしました。経聞坊は後に、白川郷における天正地震の史料である『経聞坊文書』を残しました。

埋蔵金伝説

一説には、足利義政が内ヶ島氏を白川郷へ入れたのは、鉱山開発を期待してのことだったと言われています。実際に、為氏が入郷した後には、2、3の金山が発見されており、内ヶ島氏の高い鉱山技術が窺えます。また、真偽は定かではありませんが、最後の当主である氏理は、居城に大量の金を貯め込んでいたと言われており、これを根拠に帰雲城の跡地には埋蔵金があるのではないかと言われています。

帰雲城の正確な位置は現在も確定しておらず、帰雲山の前を流れる庄川の岸辺近くに位置していたことのみ判明しています。しかし、どちら側の岸辺近くに位置していたかさえ定かではないため、石碑は正確な位置に立地していません。

そもそも、帰雲城の埋蔵金伝説は古くから白川地域に伝わっていたわけではなく、1970年（昭和45年）頃に内ヶ島氏の末裔を称する白川村出身の人物が喧伝した話を、『大阪日日新聞』などが紙面に掲載したことから拡散したものであるという指摘もあります。

いずれにせよ、埋蔵金は憶測の域を出ず、確証はありません。それに、地震の際は山体崩壊に加え洪水も発生しており、直後に帰還した者でさえ、どこに城があったか分からなかったと言われています。このことから、仮に埋蔵金が存在したとしても、発見は困難であると考えられます。

歴代当主

内ヶ島季氏（すえうじ） - 先代に関しては諸説あり、定まっていません。室町幕府の奉公衆として名が残っています。子に為氏。
内ヶ島為氏（ためうじ） - 季氏の子とされています。上野介を自称しました。白川郷の内ヶ島氏の初代当主。足利義政の命令で白川郷へ入郷しました。照蓮寺を平定し、白川郷の最大権力者となりました。為氏が集めた財が、茶道具や銀閣などの義政の財政基盤になったとする説があります。
内ヶ島雅氏（まさうじ） - 為氏の子。父と同じく上野介を自称しました。熱心な一向宗徒であったため、照蓮寺とは融和政策をとりました。後に加賀一向一揆と結託し、長尾為景と戦いましたが敗れました。
内ヶ島氏利（うじとし） - 雅氏の子。当主としての活動の記録は8年間しか残っていません。史料も皆無に等しいです。同じ読みの漢字（利「り、とし」と理「り、とし、まさ」）のために氏理と混同された可能性があります。氏利を除いた場合、各当主が100年以上生きたことになるため矛盾が生じます。
内ヶ島氏理（うじまさ） - 氏利の子（諸説あり）で最後の当主。天正地震で帰雲山の山体崩壊に遭い、居城の帰雲城ごと一族郎党もろとも巻き込まれ死亡しました。

系譜

猪俣氏説、もしくは楠木氏説の間で議論があり、西園寺氏説は根拠が薄弱です。

猪俣氏説

楠木氏説

西園寺氏説

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