日本人 (雑誌)

『日本人』とは

『日本人』は、1888年（明治21年）4月から1906年（明治39年）12月にかけて政教社から発行された政治評論雑誌です。その後、1907年からは誌名を『日本及日本人』と改めました。

歴史的背景

『日本人』は、言論団体である政教社の機関誌として創刊されました。政教社は、志賀重昂、棚橋一郎、井上円了、三宅雪嶺ら11名の同人によって1888年4月に結成され、同月に『日本人』を創刊しました。その後、杉浦重剛、宮崎道正、中原貞七らが加わっています。

当初は半月刊、後に週刊として発行され、創刊直後には高島炭鉱事件に関するキャンペーンや、国会における大臣弾劾権問題などを特集しました。

同人たちは西洋の知識を持ち合わせており、政治的立場としては国粋主義を標榜していました。しかし、それは単なる排他的な思想ではなく、日本の伝統文化を尊重しつつ、西洋文明を日本独自の形で取り入れることを目指すものでした。志賀重昂は、日本の宗教、道徳、美術、政治、生産の制度は「国粋保存」によって守るべきであるとしつつも、西洋文明を日本の胃腸で咀嚼し、消化して取り入れるべきであると主張しました。

政府が推進する鹿鳴館に代表されるような急激な西欧化を批判したため、たびたび発禁処分を受け、雑誌はそれを避けるために何度か改名を行いました。具体的には、以下のように変遷しています。

第一次『日本人』：1888年4月 - 1891年6月
『亜細亜』：1891年6月 - 1893年9月
第二次『日本人』：1893年10月 - 1895年2月
『亜細亜』：1893年12月 - ？
第三次『日本人』：1895年7月 - 1906年12月

第二次『日本人』は、当初同人誌として出発しましたが、志賀重昂と三宅雪嶺が中心となり、内藤湖南、浅水南八、畑山芳三、長沢別天らが編集を助けました。日清戦争中の1894年には、半年以上にわたる休刊を余儀なくされています。

第三次『日本人』は、三宅雪嶺の個人雑誌としての性格を強めました。日本新聞社の社屋内に編集室を置いた時期もあり、1902年には日本新聞の社長であった陸羯南が『日本人』の社説を担当し、1904年からは三宅雪嶺が日本新聞の社員を兼務して社説を執筆するなど、両者の関係は密接なものとなりました。

1906年（明治39年）に日本新聞の社長が交代したことに不満を持った多くの社員が政教社に移籍し、三宅雪嶺は『日本人』と『日本』の伝統を引き継ぐ形で雑誌名を『日本及日本人』と改名し、自ら主宰しました。『日本人』は通巻449号をもって発展的に終刊しました。

初期の発行部数は500 - 600部程度でしたが、最盛期には4000部弱にまで増加しました。

主な執筆者

『日本人』には、以下のような著名な人物が執筆者として名を連ねています。

松岡好一、吉本襄、巖谷小波、福本日南、岡本監輔、加藤七五郎、斎藤祥三郎、加藤弘之、渡邊洪基、井上毅、鈴木券太郎、田岡嶺雲、赤羽雄一、石橋禹三郎、海浦篤弥、国府犀東、坪内逍遙、尾崎行雄、神鞭知常、高浜虚子、市島謙吉、徳富蘇峰、島田三郎、犬養毅、池辺三山、天野為之、国友重章、肥塚龍、正岡子規、横井時雄、江藤新作、笹川潔、白河鯉洋、菊池九郎、関戸覚蔵、南園竹翠、田島錦治、内村鑑三、中井喜太郎、久保田譲、干河岸貫一、藤田豊八、田口卯吉、樽井藤吉、湯本武比古、片山潜、朝比奈知泉、黒岩涙香、桐生悠々、梁啓超、高田早苗、坪井正五郎、幸徳秋水、森外三郎、来馬琢道、稲垣伸太郎、吉川潤二郎、山本良吉、山田一郎、鈴木大拙、円城寺清、丸山幹治、小川平吉、久津見息忠、山県悌三郎、浮田和民、村井啓太郎、稲田周之助、赤羽一、三淵忠彦、野上啓之助、江渡狄嶺、和田鼎、結城蓄堂、建部遯吾、須崎芳三郎、花井卓蔵、阪東宣雄、戸水寛人、根来源之、小川運平、松井広吉、高橋亨、岡野養之助、煙山専太郎、千葉亀雄、境野哲、小島烏水、中村千代松、長谷川如是閑、胡桃正見、牧口常三郎、元良勇次郎

参考文献

『雑誌「日本人」・「日本及日本人」目次総覧Ⅰ』、日本近代史料研究会（1977）
植手通有：『「国民の友」・「日本人」』、思想（1952.3）（筑摩書房 明治文学全集37 政教社文学集（1980）所収）
佐藤能丸編：『政教社文学年表』（筑摩書房 明治文学全集37 政教社文学集（1980）所収）（号別に記事名と筆者名とが載っている。）
* 『三宅雪嶺年譜』（鹿野政直編：『日本の名著37 』、中央公論社（1966）所収）

もう一度検索