東京外国語学校 (旧制)

旧制東京外国語学校：歴史、人物、校地の変遷

概要

1873年、既存の官立外国語教育機関を統合して旧東京外国語学校（旧外語）が設立されました。これは、全国で設立された8つの官立外国語学校の最初の学校であり、「語学校」とも呼ばれていました。当初は英語、フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語の5語学科が設置され、高等教育における外国語教育と通訳・翻訳の専門家を育成するという二つの役割を担っていました。

しかし、1885年には、英語、フランス語、ドイツ語の3語学科は東京大学予備門（後の東京大学）、その他の語学科は東京商業学校（後の新制一橋大学）に吸収合併され、わずか12年で旧外語は廃止されました。この旧外語は、現在の東京外国語大学のみならず、一橋大学の源流とも見なされています。

1899年、東京高等商業学校（旧東京商業学校）から分離独立して、新たな東京外国語学校（新外語）が設立されました。これは、官立の専門学校として外国語教育を行う最初の学校でした。本科には、文科、貿易科、拓殖科の他に、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、モンゴル語、タイ語、マレー語、ヒンドゥスターニー語、タミル語の学科が設置されました。旧外語と比べて、国策による在外実務者養成機関としての性格が強かったと言われています。また、当時、帝国大学では十分に教育されていなかった、アジアや中南米の諸言語も教育されていた点が特徴でした。

第二次世界大戦中には「東京外事専門学校」と改称され、1949年の新制東京外国語大学の設立に伴い同大学に包括され、1951年に廃止されました。

沿革

東京外国語学校の源流は、1871年設置の外務省「独魯清語学所」、1872年設置の外務省「韓語学所」、1873年設置の「独逸学教場」など、複数の官立語学教育機関に遡ります。これらの機関は、1873年11月4日、学制二編により開成学校語学課程と統合され、旧東京外国語学校が設立されました。

1874年には英語科が独立し、東京英語学校（後の第一高等学校）となりました。旧外語時代には、東京大学予備門や東京商業学校への吸収合併といった変遷を経て、1886年に廃止されました。

1897年には、東京高等商業学校附属外国語学校が設置され、1899年に東京外国語学校として独立しました。その後、多くの言語学科が新設され、修業年限の変更や学科名称の変更などが行われました。1944年には、東京外事専門学校と改称され、第二次世界大戦終結後、新制東京外国語大学へと発展していきました。

校地の変遷

旧外語は一ツ橋校舎を使用していましたが、東京商業学校との合併後、その校地は東京高等商業学校、そして東京商科大学へと受け継がれ、現在の一橋大学キャンパスの一部となっています。「東京外国語学校発祥の地」の碑が、旧校地に残されています。

新外語は、当初錦町校舎を使用していましたが、神田大火や関東大震災による被害を受け、元衛町校舎、竹平町校舎と仮校舎を転々とした後、1940年には西ヶ原校舎が完成しました。しかし、第二次世界大戦の戦災により焼失し、石神井校舎を仮校舎として使用しました。戦後、西ヶ原校舎が再建されましたが、その後、府中キャンパスに移転し、跡地は公園や福祉施設となっています。

著名な出身者・教員

旧外語、新外語、東京外事専門学校からは、多くの著名な人物が輩出されています。

旧外語出身者: 黒田清輝（洋画家）、黒野義文（ロシア語学者）、平生釟三郎（実業家・政治家）、永井荷風（小説家）、新渡戸稲造（農学者・教育者）、梅謙次郎（法学者）、寺尾寿（天文学者）、二葉亭四迷（小説家）、嵯峨の屋おむろ（小説家・翻訳家）、宮島大八（中国語学者）、末岡精一（法学者）、富井政章（民法学者）、児玉謙次（銀行家）、村井弦斎（ジャーナリスト・小説家）、木場貞長（文部次官）、山口鋠（陸軍少佐）など

新外語・外専出身者: 鮎貝房之進（歴史学者）、井上勇（翻訳家）、潮田五郎（英語教師）、可児徳（体育学者）、小島秀雄（海軍少将）、中瀬泝（海軍少将）、前田義徳（NHK会長）、神西清（翻訳家・ロシア文学者）、豊田貞次郎（海軍大将）、内山岩太郎（外交官）、松本勝明（競輪選手）、大久保幸次（回教圏研究所所長）、細野正文（鉄道院主事）、大井篤（海軍大佐）、中原中也（詩人）、石川淳（小説家）、新美南吉（童話作家）、飯村穣（陸軍中将）、芦田伸介（俳優）、米川正夫（ロシア文学者）、武井守成（作曲家）、五味川純平（小説家）、有島生馬（洋画家）、笹沢美明（詩人）、嶋田的浦（俳人）、杉原荘介（考古学者）、富永太郎（詩人・画家）、苫米地英俊（衆議院議員）、植松正（刑法学者）、前嶋信次（歴史家）、蔵原惟人（文芸評論家）、永島直昭（翻訳家）、神吉晴夫（光文社社長）、櫛田民蔵（マルクス経済学者）、近藤朔風（訳詞家）、矢島文夫（アラビア語学者）、和田敏雄（経済学者）、森荘已池（作家）、古沢太穂（俳人）など

教員: レフ・メチニコフ（ロシア革命家・生物学者）、古川常一郎（ロシア語学者）、武内大造（ドイツ語学者）、A・S・ホーンビー、本田増次郎、ワルワーラ・ブブノワ（画家）など

これらの出身者・教員たちは、それぞれの分野で活躍し、日本の近代化に貢献しました。

参考文献

本文中には、東京外国語大学史編纂委員会『東京外国語大学史』、野中正孝編『東京外国語学校史』など、複数の書籍を参考に記述しております。

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