古代文学

古代文学とは、およそ紀元前30世紀にあたる青銅器時代の始まりから、8世紀頃までの古代末期にかけて、文字によって記録された書物の総称です。石板やパピルス、ヤシの葉、金属板など、当時の様々な素材に刻まれたこれらの記録は、宗教文書、科学論文、物語、詩歌、戯曲、法規、公的な宣言など、極めて多岐にわたる内容を含んでいます。文字が普及する以前の口承による文学も存在しましたが、その多くは失われ、一部が文献の断片として現代に伝わるのみです。また、記述された文献であっても、時代の変遷や破壊により、現存しない膨大な数の作品があると考えられています。中には、遠く最終氷期や中石器時代に起源を持つとされる物語の系譜が、現存する文献の中に見出せるという見解を示す歴史家もいます。

時代の区分と主要な文学

古代文学の歴史は、概ね青銅器時代、鉄器時代、そして古典古代へと区分できます。それぞれの時代に、世界各地で文字文化が発展し、重要な文学作品が生み出されました。

青銅器時代（紀元前3000年頃～紀元前1200年頃）

最も古い筆記による文書は、紀元前2600年頃のシュメール文字によるものとされています。この時代は、メソポタミア（シュメール、アッカド）とエジプトが古代文明の中心であり、文学活動も盛んに行われました。名前が判明している最古の作家とされるシュメールの女神官エンヘドゥアンナ（紀元前24世紀頃）は賛歌を残しています。

主要な作品には、シュメールの『シュルパックの教訓』や『キシュ神殿賛歌』、最古の物語とされる『ギルガメシュ叙事詩』（初期のシュメール語版、後にアッカド語版も登場）、法典の先駆けである『ウルイニムギナ法典』や『ウル・ナンム法典』、『アッカドの呪い』などがあります。エジプトでは、ピラミッド内部に記された『ピラミッド・テキスト』（『カンニバル賛歌』を含む）、最古のパピルス文書である『メレルの日記』、個人的な伝記である『メッチェンの生涯』や『大ウェニの自伝』、知恵文学とされる『プタハヘテプの教訓』、そして物語である『難破した船乗りの話』や『シヌヘの物語』、宗教文書である『コフィン・テキスト』や『死者の書』などが知られています。アッカド語では、『エシュヌンナ法典』、『エヌマ・エリシュ』（バビロニア創世叙事詩）、有名な『ハンムラビ法典』などが編纂されました。ヒッタイト語では『Anitta text』が、ウガリット語では『ケレトの伝説』などがこの時代に位置づけられます。

鉄器時代（紀元前12世紀頃～紀元前8世紀頃）

青銅器時代の終焉後、各地で新たな文学が興ります。インドでは、バラモン教の聖典であるヴェーダ（リグ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、アタルヴァ・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダ）が成立しました。エジプトでは『ウェンアメンの物語』、メソポタミア（アッカド）では医学書『SA.GIG』や『Babylonian Theodicy』、『Dialogue of Pessimism』、『Epic of Erra』などが生み出されました。

古典古代（紀元前8世紀頃～8世紀頃）

この広範な時代には、ギリシア、ローマ、インド、中国、ペルシア、ヘブライなど、様々な地域で高度な文学が花開きました。

ギリシアでは、紀元前8世紀にホメロスの二大叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』が成立。その後、ヘーシオドスらが詩を作り、紀元前5世紀頃にはアイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスによる悲劇、アリストパネスによる喜劇といった演劇文学が隆盛を迎えました。ヘロドトスやトゥキディデスは歴史記述の基礎を築き、プラトンやアリストテレスは哲学対話や体系的な論考を残しました。ユークリッドの『原論』は数学の古典です。

ローマでは、紀元前3世紀以降、ギリシア文学の影響を受けつつ独自のラテン文学が発展。プラウトゥスやテレンティウスが喜劇を、エンニウスやパクウィウスが詩や悲劇を作りました。紀元前1世紀には、キケロの弁論や哲学、カエサルの戦記、ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』、ルクレティウスの哲学詩『事物の本性について』、リウィウスの歴史『ローマ建国史』など、多くの傑作が生まれました。帝政期には、オウィディウスの詩『変身物語』、セネカの悲劇や哲学、プリニウスの百科全書『博物誌』、タキトゥスの歴史書などが著されました。古典古代の終末期には、アウグスティヌスの『告白』や『神の国』、ボエティウスの『哲学の慰め』といったキリスト教神学や哲学の重要著作が出現しました。

インドでは、ヴェーダ以降もウパニシャッドやアーラニヤカといった文献が加わりました。サンスクリット語では、大叙事詩『マハーバーラタ』やプラーナ文献が編まれ、パーニニが『アシュターディヤーイー』でサンスクリット語文法を体系化しました。カーリダーサの劇『シャクンタラー』や叙情詩『メーガ・ドゥータ』は古典インド文学の頂点とされます。医学書（スシュルタ・サンヒター）、政治論（実利論）、哲学（サーンキヤ・スートラ、ヴァイシェーシカ・スートラ、ブラフマ・スートラ）など、多様な分野で著作が生まれました。仏教文献としては、パーリ語の三蔵やブッダゴーサの注釈書、サンスクリット語の仏典などが各地で編纂されました。南インドではタミル語によるサンガム文学や文法書『トルハーッピヤム』が発展しました。

中国では、紀元前7世紀頃までに『詩経』、『書経』、『易経』といった古典が成立。紀元前5世紀以降、孔子の『論語』、孫武の兵法書『孫子』、墨子の著作、荘子や孟子といった諸子百家の思想書が著されました。歴史書としては『春秋』や司馬遷の『史記』などが大きな影響力を持っています。

ペルシアでは、ゾロアスター教の聖典であるアヴェスター語の『アヴェスター』が重要です。後にはパーレビ語による文献も生み出されました。

ヘブライでは、ヘブライ語聖書の大部分がこの時代に成立しました。特にトーラー（モーセ五書）は重要な地位を占めます。紀元前2世紀頃には『シラ書』や『知恵の書』といった知恵文学が書かれ、アラム語の『ダニエル書』も成立しました。

この他、ウガリット語、アラム語、エトルリア語、シリア語、シンハラ語、初期アイルランド語など、各地で様々な文学が生まれ、古代世界の多様な文化や思想、社会の様子を現代に伝えています。古代文学は、その後の東西の文学、哲学、科学、法体系などの源流となり、人類の知的遺産形成に不可欠な役割を果たしました。

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