天子摂関御影

天子摂関御影（てんしせっかんみえい）

「天子摂関御影」は、平安時代後期から鎌倉時代にかけての天皇、摂関、大臣、総勢131名の肖像を描いた絵巻です。似絵（にせえ）の技法を駆使した肖像画として知られ、当時の貴族社会の様子を伝える貴重な歴史資料となっています。元々は曼殊院門跡に伝来しましたが、明治時代に皇室に献上され、現在は皇居三の丸尚蔵館に所蔵されています。2024年8月27日には、その文化的価値が認められ、国の重要文化財に指定されました。

概要

全4巻で構成されており、「天子巻」「天子付属巻」「摂関巻」「大臣巻」に分かれています。

天子巻: 鳥羽院から後二条院までの天皇18名（本来は20名）の肖像が描かれています。
天子付属巻: 後光厳院の肖像が描かれています。
摂関巻: 藤原忠通から鷹司冬教までの摂関30名の肖像が描かれています。
大臣巻: 藤原家忠から今出川兼季までの大臣80名の肖像が描かれています。

各巻とも、肖像は盛装した姿で描かれ、各人物の左肩上には墨書で名前が記されています。背景や詞書はありませんが、似絵の技法によって各人物の個性が捉えられています。「天子巻」は装束が多様で色彩豊かですが、「摂関巻」「大臣巻」は比較的画一的な装束で描かれています。

作者と年代

「天子巻」「摂関巻」「大臣巻」の巻末には、尊円入道親王の筆と推定される奥書があり、描画と人名注記は以下の人物によるものとされています。

画: 藤原為信（「天子巻」の一部）、藤原豪信（「天子巻」の一部、「摂関巻」「大臣巻」全部）
注: 世尊寺行尹（「天子巻」の一部）、尊円入道親王（奥書筆者、天子巻の一部か）

為信や豪信は、似絵の技能を代々継承した隆信派の絵師であり、多くの人物画の粉本を所有していたと考えられています。本図巻は、それらの粉本を集大成した写本的な性格が強い作品です。為信の没後、段階的に描き継ぎが行われたと考えられ、全3巻の最終的な成立は貞和4年（1348年）から同6年（1350年）1月の間と推定されています（「付属巻」はこれ以降の成立）。

収録人物

各巻には、以下の人物の肖像が収録されています。

天子巻: 鳥羽院、崇徳院、後白河院、二条院、高倉院、後鳥羽院、土御門院、順徳院、後高倉院、後堀河院、四条院、後嵯峨院、後深草院、亀山院、後宇多院、伏見院、後伏見院、後二条院、花園院、後醍醐院
天子付属巻: 後光厳院
摂関巻: 藤原忠通、近衛基実、松殿基房、近衛基通、松殿師家、九条兼実、九条良経、近衛家実、九条道家、九条教実、近衛兼経、二条良実、一条実経、鷹司兼平、近衛基平、鷹司基忠、九条忠家、一条家経、二条師忠、近衛家基、九条忠教、鷹司兼忠、二条兼基、九条師教、鷹司冬平、近衛家平、二条道平、一条内経、九条房実、鷹司冬教
大臣巻: 藤原家忠、源有仁、藤原宗忠、藤原頼長、三条実行、源雅定、徳大寺実能、藤原宗輔、藤原伊通、三条公教、徳大寺公能、藤原宗能、藤原経宗、平清盛、藤原忠雅、源雅通、藤原師長、平重盛、平宗盛、徳大寺実定、九条良通、三条実房、藤原兼雅、藤原兼房、中山忠親、藤原頼実、源通親、藤原隆忠、西園寺実宗、花山院忠経、近衛道経、九条良輔、徳大寺公継、坊門信清、三条公房、源実朝、近衛家通、久我通光、西園寺公経、大炊御門師経、九条良平、西園寺実氏、土御門定通、九条基家、三条実親、大炊御門家嗣、衣笠家良、徳大寺実基、堀川具実、二条道良、花山院定雅、西園寺公相、西園寺公基、山階実雄、三条公親、大炊御門冬忠、花山院通雅、中院通成、花山院師継、久我通基、堀川基具、西園寺実兼、大炊御門信嗣、洞院公守、土御門定実、徳大寺公孝、三条実重、西園寺公衡、一条内実、近衛経平、堀川具守、洞院実泰、今出川公顕、三条公茂、花山院家定、六条有房、中院通重、花山院師信、大炊御門冬氏、今出川兼季

関連作品

公家列影図（京都国立博物館蔵）
天皇摂関御影（徳川美術館蔵）

これらの作品もまた、当時の公家社会の肖像を知る上で貴重な資料となっています。

「天子摂関御影」は、似絵の技法を通して描かれた肖像群であり、当時の政治や文化、装束を知る上で欠かせない重要な文化財です。デジタルアーカイブも公開されているので、ぜひご覧ください。

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