泉ヶ岳

泉ヶ岳（いずみがたけ）

宮城県仙台市泉区の北西部に位置する泉ヶ岳は、標高1175メートルの山です。奥羽山脈の船形連峰に連なり、その美しい姿は地域の人々に愛されています。

地形と名称

泉ヶ岳は、奥羽山脈の一部である船形山系の最後に形成された錐状火山です。約250万年前から始まった第四紀に活動した火山で、噴出した安山岩によって、芳の平から山頂まで三つの段状の地形が形成されました。特に兎平付近は玄武岩質の溶岩でできています。兎平のように「〜平」と名付けられた場所は、見晴らしが良い場所が多いのが特徴です。

その名の由来は、豊富な湧水が池や川を作り出していることから来ています。泉ヶ岳から流れ出るヒザ川は七北田川の源流の一つであり、周囲には七北田ダムや大倉ダムなどがあり、仙台平野を潤す重要な水源となっています。

泉ヶ岳は、北泉ヶ岳、蘭山、高倉山、黒鼻山など、周囲の山々を含めた地域全体の通称としても使われます。特に、泉ヶ岳山頂から南東に広がる七北田川流域の裾野一帯が「泉ヶ岳」と呼ばれることが多いです。地元の人々や若者の間では「ガタケ」という愛称でも親しまれています。周辺の住所は泉区福岡字岳山です。

古文書には、この山が様々な名称で記されています。例えば、江戸時代の文献には「和泉嶽」「泉嶺」「嶺白石嶽」などと記されており、明治時代にも「根の白石嶽」「泉ヶ嶽」「白石嶽」「旭嶽」など、様々な表記が見られました。また、麓の村人たちはこの山を「岳山（だけやま）」と親しみを込めて呼んでいました。仙台藩領内では、高山や深山を指して一般的に「岳山」と呼んでいたようです。泉ヶ岳を有する自治体には、泉嶽村、泉市、泉区など、山の名前に因んだ名称が付けられています。

生態系

植物

泉ヶ岳の植物相は非常に豊かです。春にはニリンソウが群生し、その変異種であるミドリニリンソウも特定の場所で見られます。また、白いカタクリも稀に咲くことがあります。ミズバショウの群生地もいくつかあり、芳の平ではウメバチソウやサワギキョウなどの湿地性植物も見られます。しかし、湿地の減少とともに、これらの植物の個体数は減少傾向にあります。かつてはトキソウやサギソウも群生していましたが、環境の変化や盗掘によって姿を消してしまいました。ミズバショウの見頃は4月中旬から下旬頃です。

かつてはイカリソウ、シラネアオイ、カタクリ、ホトトギス、ラショウモンカズラ、キキョウ、シオガマギク、ナデシコ、イワウチワ、ギンリョウソウ、ベニバナイチヤクソウ、ササバギンラン、コケイランなどが普通に見られましたが、近年は数が減少し、見つけるのが難しくなっています。

動物

哺乳類・鳥類

哺乳類では、ニホンカモシカやニホンヤマネなどの天然記念物に加え、ホンドタヌキ、ホンドギツネ、ニホンアナグマ、ニホンツキノワグマ、ホンドテン、ハクビシン、トウホクノウサギ、ヒミズ、ヒメネズミなど、多様な種が生息しています。ツキノワグマによる事故は稀ですが、過去には人身事故も発生しています。また、人による動物への交通事故も多く発生しています。

鳥類は、オオルリ、ミソサザイ、カワガラス、シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラ、エナガ、コゲラ、アオゲラ、ハシボソガラス、ノスリ、トビ、チョウゲンボウ、ヨタカ、オオジシギ、カケス、コルリ、アカゲラなど、多くの留鳥や漂鳥が生息しています。

爬虫類・両生類

爬虫類では、シマヘビ、アオダイショウ、ヤマカガシ、ニホンマムシなどが生息していますが、毒蛇による事故はほとんど報告されていません。両生類では、モリアオガエル、アカハライモリ、ハコネサンショウウオ、トウホクサンショウウオ、ヤマアカガエルなどが見られます。かつてモリアオガエルの産卵地であった芳の平の林道にある水たまりは、マウンテンバイクコースの整備により埋め立てられ、モリアオガエルはその場所から姿を消しました。また、泉ヶ岳北側の桑沼もかつてはモリアオガエルの産卵地でしたが、ニジマスやブラックバスなどの外来魚の影響により、現在は見られなくなっています。

昆虫類

昆虫類は、オニヤンマ、オオイトトンボ、オオルリボシヤンマ、ミヤマクワガタ、ヒョウモンチョウ、エゾハルゼミ、ヒメギフチョウ、エゾアカヤマアリなどが生息しています。夏には、アサギマダラも飛来します。山腹より上には農場やゴルフ場がないため、農薬などの影響が少なく、蚊やハエ、アブなどの天敵がバランス良く保たれています。一方で、キイロスズメバチによる被害も発生しています。近年、蚊の繁殖が顕著になってきています。かつては芳の平のミズバショウ群生地にハッチョウトンボが生息していましたが、湿地の減少や天敵の増加により、姿を消しました。

魚類

魚類では、ヒザ川やヤシキ川などにイワナが生息していましたが、近年は数が減少しています。かつてはテツギョが生息していた沼もありましたが、釣り人の乱獲などにより、2005年頃から姿を見ることができなくなりました。

開発と自然環境への影響

泉ヶ岳は、豊かな自然が残されている一方で、産業廃棄物や残土の処分場、自然林の伐採、開発などによって自然環境が脅かされています。別荘地や飲食店のための開発も進み、外来種の植栽や昆虫、植物の採取も後を絶ちません。また、散策客増加に伴う排気ガスや動物の交通事故も増加しており、長年守られてきた自然が急速に失われつつあります。

2006年には、泉ヶ岳スキー場付近で大規模な無許可伐採が行われ、自然保護の観点から問題となりました。伐採場所はワレモコウやオミナエシなどの貴重な植物の宝庫であったため、その回復状況が注目されています。

市民による山岳利用

泉ヶ岳は、仙台市都心部から約1時間というアクセスの良さから、市民に親しまれています。登山、ハイキング、スキーなどのレジャー目的で訪れる人が多く、市民の憩いの場となっています。

登山・ハイキング

泉ヶ岳は、初心者からベテランまで楽しめる登山・ハイキングコースが整備されています。槙有恒も学生時代にこの山を愛し、縦走の思い出を著書に記しています。春の桜、秋の紅葉、山菜採りなど、季節ごとに異なる楽しみ方ができます。主な登山コースとしては、水神コース、滑降コース、表コース、北泉コース、かもしかコースの5つがあります。リフトを利用することもできます。

スキー・スノーボード

泉ヶ岳には、泉ヶ岳スキー場とスプリングバレー泉高原スキー場の2つのスキー場があります。仙台市街地から1時間程度でアクセスできるため、平日でも多くのスキーヤーが訪れます。かつては、2つのスキー場のナイター照明が「ハ」の字に見えましたが、現在は泉ヶ岳スキー場のナイター営業が終了したため、見ることができなくなっています。スプリングバレー泉高原スキー場の駐車場からは、仙台平野と太平洋を一望でき、夜景スポットとしても人気があります。

2009年には、泉ヶ岳スキー場に宮城県初のウォータージャンプ施設が開業しましたが、2017年に営業を終了しました。

その他

積雪期以外には、パラグライダーも行われています。また、毎年5月には「仙台泉ヶ岳アウトドアフェスティバル」が開催され、マウンテンバイクの大会も行われます。

2021年には、ワーケーション需要に対応するため、温泉施設、コテージ、キャンプ場を備えたレジャーエリアが開発されました。ローカル5Gも整備され、快適な環境でアウトドアを楽しめるようになっています。

歴史

藩政時代、泉ヶ岳は9つの村の入会山でした。明治時代になると、泉ヶ岳は泉嶽村の山となりました。泉ヶ岳では度々、雨乞いの儀式が行われており、1853年には7日間にわたる雨乞いの儀式が行われた記録があります。雨乞いは近代になっても続き、1895年には水神碑が建立されました。1933年が泉ヶ岳で行われた雨乞いの最後の記録とされています。

1932年頃には、地元のスキーヤーたちが「おせき小屋」と呼ばれる小屋を建てました。おせき小屋はスキーヤーだけでなく、登山者や山仕事をする村人にも利用されました。しかし、1943年に焼失し、管理人夫婦は山を降りました。

戦後、泉ヶ岳の開発を目指す人々によって「泉山荘」が開所し、その後「泉ヒュッテ」と改名されました。泉ヶ岳には登山道が切り開かれ、登山指導標も立てられました。1963年には泉ヶ岳スキー場が新たに設けられ、1964年には電気が通ってリフトが運転されるようになりました。

1960年代には、遊園地「泉ランド」が建設されましたが、集客が伸び悩み、やがて荒廃しました。

1960年代後半から1980年代にかけて、泉ヶ岳には多くの公設施設が建てられました。宮城県泉が岳青年の家、勤労者野外活動センターキャンプ場、仙台市泉岳少年自然の家などが開設されました。老朽化した泉ヒュッテは取り壊され、泉勤労者野外活動センターが建てられました。

1988年に泉市は仙台市に編入合併し、泉ヶ岳は仙台市内の山となりました。1991年には、泉高原スプリングバレースキー場が新たに開設されました。

平成時代には、温泉開発が進み、日帰り天然温泉施設や温泉宿泊施設が開業しました。2000年代になると、公設施設の廃止が相次ぎましたが、仙台市泉岳自然ふれあい館が開館しました。

泉ヶ岳山頂部は、かつては国有地でしたが、民間に払い下げられた後、所有権が何度も移転しました。2006年に仙台市が山頂部を買収し、市民共有の財産となりました。

アクセス・山中の施設

泉ヶ岳へは、宮城県道35号泉塩釜線から国道457号、宮城県道223号泉ヶ岳公園線を経由してアクセスできます。各スキー場には駐車場があります。公共交通機関では、仙台市地下鉄南北線の泉中央駅から仙台市営バスが利用できます。

山腹には泉ヶ岳ロッジ、オーエンス泉岳自然ふれあい館があります。また、2022年にはワーケーション対応のキャンプ＆リゾート施設「IZUMI PEAK BASE」がオープンしました。

かつては、山麓に「やまぼうし」や「スパ泉ヶ岳」という温泉施設がありましたが、現在は閉鎖されています。

脚注

出典

参考文献

泉市史編纂委員会　『泉市史』下巻　泉市、1986年。
仙台市史編さん委員会　『仙台市史』特別編9（地域史）　仙台市、2014年。

関連項目

仙台のスポーツ
天空のゆりガーデン

外部リンク

見どころ（泉区）
泉なつかし写真館―第4回 泉ケ岳
仙台市泉岳少年自然の家
ふるさと緑の道（宮城県）
仙台市少年自然の家条例（昭和四八年三月二七日仙台市条例第三号）
仙台市泉岳自然ふれあい館条例（平成二四年六月二二日仙台市条例第四三号）

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