症状と徴候

徴候と症状、そして症候学

医学において、患者の状態を把握する上で重要な概念が「徴候」と「症状」です。これらはしばしば混同されがちですが、それぞれ異なる意味を持ちます。

徴候（Signs）とは、医師が身体検査や各種検査によって客観的に確認できる異常所見を指します。例えば、体温の上昇、血圧の変動、発疹、腫れなどがこれにあたります。徴候は、第三者が見て確認できるため、診断の客観的な根拠となります。

一方、症状（Symptoms）とは、患者本人が自覚する異常な感覚や不調を指します。例えば、発熱、頭痛、吐き気、倦怠感などが症状です。症状は、患者の主観的な訴えであるため、具体的な表現や強さは患者によって異なります。

症候学（Semeiology）とは、これらの徴候と症状を体系的に理解し、疾患の診断に役立てるための医学の一分野です。症候学では、患者の訴えや診察所見を詳細に記録し、それらを組み合わせて意味づけを行います。これにより、医師は患者の状態をより正確に把握し、適切な治療方針を立てることができます。

主な症候

症候は、身体の様々な部位に現れます。以下に、主な症候を部位別にまとめました。

全身

生体情報
脈拍：頻脈、徐脈、不整脈
呼吸：頻呼吸、無呼吸、チェーン・ストークス呼吸
血圧：高血圧、低血圧
体温：高体温、低体温
全身症状：倦怠感、肥満、るいそう（やせ）、浮腫、悪液質、リンパ節肥大、黄疸
発熱：稽留熱、弛張熱、間欠熱

皮膚・粘膜

紅斑、壊死性遊走性紅斑
紫斑、膨疹、鱗屑、落屑、水疱、膿疱
ゴットロン徴候：手指の関節背面に現れる落屑を伴う紅斑
線状出血：爪の内側に現れる線状の出血
皮膚瘙痒感

頭頚部

頭痛：片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、混合型頭痛
失神、めまい、痴呆
頸静脈怒張：心不全や上大静脈症候群などで見られる
耳鳴、難聴、耳痛、耳だれ、耳閉感
羞明感、視野狭窄、近視、遠視、弱視、複視
眼球突出：バセドウ病などで見られる
眼瞼浮腫：甲状腺機能低下症などで見られる
カイザー・フライシャー角膜輪：ウィルソン病で見られる
鼻漏、鼻閉、鼻出血
歯痛、歯肉出血、歯肉腫脹、舌苔、扁桃肥大
巨大舌：先端肥大症などで見られる
嚥下障害、構音障害
甲状腺肥大
項部硬直
下顎突出：先端肥大症などで見られる
円形顔貌：偽性副甲状腺機能低下症などで見られる
満月様顔貌（ムーンフェイス）: クッシング症候群、副腎皮質ステロイド剤長期使用などで見られる
ガーゴイル様顔貌：ハーラー症候群で見られる
仮面様顔貌：全身性強皮症、パーキンソン病で見られる
無欲状顔貌：高熱性疾患、軽度意識障害、腸チフス、パラチフス、粟粒結核、敗血症、精神病（抑うつなど）で見られる
ヒポクラテス顔貌：慢性消耗性疾患（癌末期、死期の迫った患者など）、低栄養状態（難民）で見られる
苦悶状顔貌：疼痛、急性疾患で見られる
失笑性顔貌（スフィンクス顔貌）：進行性筋ジストロフィーで見られる
テタメス顔貌（痙笑）：破傷風で見られる
浮腫状顔貌：僧帽弁狭窄症、上大静脈症候群、粘液水腫（甲状腺機能低下症）で見られる
眼球突出顔貌：バセドウ病（甲状腺機能亢進症）で見られる
眼瞼下垂顔貌：動眼神経麻痺、重症筋無力症、腎不全、ネフローゼ症候群で見られる
強張った顔貌：全身性退行性強皮症（強皮症）で見られる
人形様顔貌：糖原病I型で見られる
斧様顔貌：筋強直性ジストロフィーで見られる
無表情：精神分裂で見られる

胸部

愁訴：胸痛、動悸、喀痰、喀血
病的呼吸：呼吸困難、クスマウル呼吸
胸郭変形：漏斗胸、鳩胸
女性化乳房
咳：乾性咳嗽、湿性咳嗽、痙攣性咳嗽、犬吠様咳嗽
心音：I音、II音、III音、IV音、拡張期雑音、収縮期雑音
肺副雑音：連続性ラ音（笛声音、類鼾音）、断続性ラ音（捻髪音、水泡音）
胸腔：膿胸、血胸、乳糜胸

腹部

食欲不振、嘔気、嘔吐、腹部膨満、吐血
便秘、下痢、渋り腹、血便、黒色便
頻尿、乏尿、血尿、蛋白尿、低張尿、高張尿
腹痛：心窩部痛、疝痛
圧痛（マクバーニー圧痛点、ソラー圧痛点、ボアズ圧痛点）、筋性防御、反動痛、ブリュンベルク徴候
鼓音、金属音、ダンス徴候
肝腫大、脾腫、マーフィー徴候
紫斑（カレン徴候、グレイ・ターナー徴候）

四肢

登攀性起立（ガワーズ徴候）：下肢帯筋の低下により見られる
間欠性跛行
浮腫、静脈瘤、チアノーゼ
関節炎：単関節炎（ベーチェット病）、多発関節炎（関節リウマチ、全身性エリテマトーデス）
ばち指
ゴットロン徴候
手掌紅班
ばね指

生殖器

不正性器出血
硬結
陰嚢腫大
排尿時痛
腫瘍、潰瘍

精神

譫妄、昏睡
幻覚、幻聴、妄想
抑鬱、躁状態
認知症、見当識障害、記銘力低下

血液

アシドーシス、アルカローシス
高尿酸血症、高ピルビン酸血症、高脂血症
塩基過剰：アシドーシスやアルカローシスを評価する指標
汎血球減少

症候を理解することの重要性

症候は、疾患を特定するための重要な手がかりとなります。医師は、患者の訴えや身体所見から、考えられる疾患を絞り込み、必要な検査を行い、最終的な診断に到達します。症候を理解することは、患者自身が自分の体の異変に気づき、早期に医療機関を受診する上でも重要です。

この情報が、皆様の健康管理に役立つことを願っています。

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